5大総合商社のひとつで働いています。
給与水準は30代前半で1,300万円程度と、日系企業では大変恵まれている環境です。
しかしながら、会社がジェネラリストとしての育成を重視しているため専門性がつかず、このままでは他社で通用しない人材になってしまうのではないかと不安です。
総合商社を辞めることについて、人事のプロとしてはどう思われますでしょうか?
今回は日本特有の業種とも言われる総合商社について扱う。
「総合商社を辞めたい方の教科書」と題して、元・総合商社パーソンの退職理由や辞めた後の後悔、市場価値、進路に至るまでを記載していく。
筆者は実際に、5大商社から何人か面接で雇ったことがあります。(つまり、転職理由等も何度か直接聞いています)
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
この記事を読むことで、総合商社を本当に辞めても良いのかどうかの決断が容易になり、退職後のキャリアが明確化することを約束する。
総合商社の古い企業体質に不満を抱く若手は多いが、辞めるとは限らない
まず、総合商社を辞めたい人は多いのかどうかについて記載する。
結論を言えば、総合商社の古い組織風土に不満を持つ若手・中堅は多いが、日系企業最高峰の待遇から、実際の退職に踏み切る人は(不満を持つ人数に比して)多くはない印象である。
OpenWork(旧・Vorkers)の口コミから分かる総合商社の組織風土を見てみよう。
どの総合商社なのかによって組織風土が異なるため、出来る限り総合商社横断で共通して出てくる口コミを抽出している。
- 基本的には年功序列であり、高給のために居座っている中高年社員も多い
- 配属ガチャがひどい。出世した人がいた部門に初期配属されるかどうかが重要である上に、出ていくのにはかなりのパワーが必要
- 若手にチャンスが回ってこない。社内資料の作成等、裁量がなく成長が見込めない雑務で辞めてしまう若手・中堅が増えている
- トップダウン・官僚的・軍隊的な組織であり、上の言うことはどんなにおかしくとも絶対である
- 関係者が必要以上に多いため、意思決定プロセスに時間がかかる。未だにハンコ文化を温存している
OpenWorkの組織風土のページには、ポジティブなコメントばかりが並ぶ企業もある。
しかし、総合商社はその高い待遇の割にポジティブ・ネガティブが半々といった印象であり、特に若手には大きな不満を抱いている人が多かった。
Google検索における「総合商社 辞めたい」の検索数も多く、月あたりで数百回検索されている。
とはいえ、社員数から見た退職検討コメントの数や、転職市場における総合商社出身者の出現率からすると、実際に辞めている人はそこまで多くない。
OpenWork(旧・Vorkers)から見る総合商社の退職理由
各企業の退職者による口コミ情報サイトであるOpenWork(旧・Vorkers)には、現時点で5大商社合計984件(三菱229/三井217/伊藤忠180/住商176/丸紅182)の退職理由が記載されていた。
ここからサンプル抽出して分析してみると、多い順に以下の退職理由となった。
- 専門性・スキルがつかない
- 初期配属が全てで、やりたいことが出来ない
- 働かない中高年が多い
- その他(女性としてこの働き方を続けられない、起業したほうが稼げる、等)
どの総合商社であっても、退職理由としては①(専門性・スキル)が圧倒的に多かった。
以下のように多様な言葉で表現されていたが、要は「このままだと外部で通用しない人間になってしまう」という危機感が背景にある。
- 社内調整や資料作成などの雑務が多すぎる
- 忖度スキル・社内調整スキルだけが上達していき、外部で役立つスキルは何も身に付かない恐怖がある
- 会社のジェネラリスト志向と合わない。ジェネラリストとして10年後、20年後のキャリアがイメージできない
- 成長速度が遅い。40歳でようやくチームリーダーとなる
この結果は、ある意味で総合商社の人材の優秀さを感じさせる。
「総合商社に一生いる」という人間以外は30代前半までに出ていくべきだと(総合商社に居ながらにして)気づくことが出来る、優秀な人材が多いとも言えるからである。
総合商社を辞めたら後悔するか
総合商社を辞めたいという方の中には「辞めたら後悔するのか?」が気になる方もいるだろう。
結論から言えば、「後悔する可能性は一定程度ある」が筆者の回答である。
辞めて後悔する可能性は一定程度あるという根拠は、以下の通りである。
- 総合商社での常識や企業文化は、外資や日系グローバル企業とは大きく異なる場合が多いから
- 専門性がない分野に飛び込んだ場合、数年~10年程度のギャップを埋めないと周囲に勝てないから
- 安定して給与が高いというアドバンテージは、失ってから良さに気づく場合も多いから
- 上記①~③の理由で、後悔している実例を筆者自身が目にしたことがあるから
(後悔しているかを直接質問した訳ではなく、日常会話から判断しています)
元・総合商社パーソンの市場価値と退職後の進路
さて、次は元・総合商社パーソンの市場価値と退職後の進路についてである。
実は市場価値というものは、現在の在籍会社だけで判定するのは難しい。
「【ミイダス診断は嘘】転職の市場価値はエージェントの求人で判断すべき理由」にも記載したが、本当の市場価値は、転職エージェントに登録し、エージェントが持ってくる求人で判断するしかない。
とはいえ、総合商社出身者の場合は市場価値について述べるのが比較的容易である。
- 学歴やビジネスの基礎力から、20代を通して(特に第2新卒としては)最高の市場価値を持つ
- 30代以降、転職市場での優位性は下がっていく。未経験でのコンサルや投資銀行への転身も30半ばまでがリミット
- 30代後半からは、商社内で配属された専門領域では転職できるが、それ以外ではお互いマッチングしなくなっていく
20代ではマッキンゼーやBCG等の外資系戦略コンサルに並ぶ万能の市場価値を持つが、コンサルとは異なり総合商社には古い企業文化や専門性に重きを置かない育てられ方があることから、30代からはその優位性を失っていく。
実際、筆者が面接した5大商社出身者は、ゼネラリストとして育成されることに危機感を抱いた20代~30代前半の方がほとんどであった。
>>スペシャリストかゼネラリストか。ゼネラリストを選ぶべき唯一の場合を人事プロが解説
かつては総合商社に入社すると一生総合商社にいることが多かったが、今は進路が少しずつ広がってきている。
外資系コンサルや投資銀行のような同レベル以上の年収を期待できる転職先のほか、専門性を身に付けられる事業会社(メーカーetc.)への転職や、ベンチャー企業への転職も増えてきている。
総合商社パーソンが選ぶべき転職エージェント・転職サイト
総合商社の方に限ったことではないが、希望する進路によって、選ぶべき転職エージェントや転職サイトは異なる。
例えば、「元・総合商社の社員だからこのエージェント」ではなく、「大手の事業会社に入りたい人なら、大手企業を得意とするこのエージェント」のように決まります。
転職エージェント選びを軽視している人も多いが、彼ら・彼女らは転職が成功するか失敗するかを決める重要なパートナーである。
それはつまり、人生が変わるということです。
良い転職エージェントの条件や出会い方については、「転職エージェントの選び方の教科書|出会い方、絞り込み方、付き合い方まで」に全て書いたので参考にしていただければと思う。
大きくは以下の4つに分かれるであろう転職希望先別に解説しているので、参考になるだろう。
- 大企業への転職を希望
- 中小企業への転職を希望
- ベンチャー企業への転職を希望
- 外資系企業への転職を希望
まとめ
他社で通用する専門性やスキルがつかないという理由から、総合商社を辞めて転職したいと思っている若手・中堅社員は多い。
既に述べた通り、総合商社パーソンの転職における優位性は、年齢とともに失われていく。しがみつくのであれば一生しがみつくべきだし、辞めるのならば早く辞めるべきである。
転職活動の一歩目をどのように踏み出すべきか、ためらっている方はまずこちらの記事を見ておいてほしい。
あなたの望む最高の求人は、あなたが転職活動を始めてすぐに入ってくるものではない。
そこで「転職サイトに登録し、あとは放置して良い求人や良いエージェントがストックされるのを待つ」転職活動の手法である、ゆるゆる転職が効果を発揮する。
未来の自分のために、「今」行動してはいかがだろうか。