とあるきっかけからコーチングや育成の勉強をはじめ、人事分野に興味を持っています。とはいえ、現在の企業では営業から人事のような本社系職種に異動するのは困難です。
そのため、転職で人事に挑戦したいと思っているのですが、30代で未経験職種への転職は厳しいとも聞きます。実際はどうなのか、また、成功させるポイント等があれば、教えてください。
今回のテーマは「30代での未経験職種への転職」である。
結論から申し上げると「30代での未経験職種への転職は可能であるし、実質的に最後のチャンス。ただしハードルは高いため、成功させるためのポイントを知っているかどうかが重要。本記事でそれらを網羅的に記載していく」という内容の記事になっている。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
この記事を読むことで、未経験職種への転職に必要な心構え・知識を網羅的に知ることができ、ハードルが高い「30代での未経験職種への転職」の成功確率を飛躍的に高めることができるだろう。
【前提】30代で未経験職種にチャレンジしたい人は多い
前提として述べておくと、30代で未経験職種に転職したい、という方は多い。
ドラッカーも言っている通り、新卒で最も適性のある職種に配属される人は多くない。
最初の仕事はくじ引きである。最初から適した仕事につく確率は高くない。
しかも、得るべきところを知り、向いた仕事に移れるようになるには数年を要する。P.F.ドラッカー「非営利組織の経営」
よって当然のことながら、新卒~20代での経験を経て、30代で別の職種に移りたくなる方は非常に多い。
【念のための確認】現職での異職種への異動ではダメなのか?
さて、本格的に未経験での転職の話に入る前に、一つだけ確認しておく。
それは、「今の会社で、その未経験職種に異動するのではダメなのか?」ということである。
本サイトではよく言うのだが、転職は失敗しても挽回が可能だ。
とはいえ、失敗した場合には挽回にそれなりの時間と労力がかかるため、転職にはかなりのリスクがあることも事実である。
一方で、異動であれば社風等に戸惑うことはないため、30代であっても比較的容易に未経験職種に挑戦できる。
つまり、異動は転職よりリスクが低いといえる。
だから、現在の在籍企業に社内異動制度があったり、まだ人事に相談していなかったりするのであれば、異動を検討してみる価値はある。
異動であれば、失敗した場合にも転職というカードがまだ残っており、未経験職種での転職よりも若干有利な条件(少しだけ経験あり)で転職が出来る。
以上のことから、異動を試みることはかなりおすすめである。
様々な事情から「自分の場合にはそれは無理」という方もいるだろうが、可能性がありそうな方はぜひ異動も選択肢に入れて検討してみてほしい。
【実情】30代での未経験職種への転職が困難な理由
30代での未経験職種への転職希望者は多い。
しかしながら、その希望を実際に叶えるのは難しい。
その理由は大きく言って以下の3つである。
- 未経験ということそのもののハードルの高さ
- 現職種への慣れとラーニングアジリティの低下
- 面接官からの厳しい目線
それぞれ簡単に解説しておく。
【1】未経験ということそのもののハードルの高さ
「異業種転職の教科書」に記載したとおり、業種未経験の転職なら何とかなる。
新しい業種に転職した場合でも、職種がそのままであれば専門性が生かせる場合が多い。
一方で、未経験職種への転職は専門性の引継ぎがほぼなく、ゼロからの出直しになることが多い。
新卒時、または20代であれば「ゼロからのスタート」に違和感はないだろうが、30代になって本当にゼロからスタートすることは、大きな精神的負担も伴う。
【2】現職種への慣れとラーニングアジリティの低下
未経験の異職種への転職は、20代でも辛い。
これが30代となると、「すでに現在の職種のやり方が染みついている」「20代の頃より適応力(ラーニングアジリティ)が落ちている」という二つのハンディキャップを抱えることになる。
新しい職種での立ち回りを学ぶことに加え、人材開発の世界で「アンラーニング(学習棄却)」と呼ばれるステップも必要になってくる。
【3】面接官からの厳しい目線
ここまでに述べた「30代で未経験職種に転職することのハードル」は、経験ある面接官なら皆知っているし、実際の失敗例を見てきている。
よって、応募者が殺到するような優良企業では、わざわざ未経験の30代を採用するということは少ない。
つまり、単純に選考通過率が落ちる。
また、それによる副次的なデメリットとして、「未経験の30代でも採用しなければならないような人材不足の企業」に入社してしまいやすい。
「未経験歓迎」というのは、大量離職のため、未経験者であっても大量採用せざるを得ない企業の常套句です。
困難だが、最後のチャンスであることも事実
あなたが30代なのであれば、今回の転職が「未経験職種への転職」を目指す上で最後のチャンスになる可能性が高い。
当サイト「転職参謀」はプロが率直な知見をシェアするサイトなので、ここまでは「厳しい」ということを率直にお伝えしてきた。
しかしながら、筆者自身が成功例を多数見てきたことも事実である。
些か精神論的にはなるが、やりたいならやってみるべきだと個人的には思う。
基本的には、失敗しても取り返しがつくのが転職であるからだ。
>>転職に失敗したらどうなる?どうすればいい?人事のプロが本音で解説
【対処法】30代での未経験職種への転職を成功させるポイント
ここまで、30代での未経験職種への転職の困難さについて話してきた。
とはいえ、30代は未経験職種への転職の最後のチャンスでもあり、「そうはいってもやりたい」という場合もあるだろう。
ここからは、未経験職種への転職を成功させるためのポイントについて書いていく。
全て筆者が見てきた、実際の成功例・失敗例から導き出したものである。
未経験職種への転職を成功させるためのポイントは、大きく分けて以下の3つある。
- 転職の失敗パターンを避ける
- 転職が成功しやすい行動をとる
- 異職種への転職ならではの覚悟と知識を持つ
簡単に言えば、「転職における一般的な失敗パターン」を避け、「転職における一般的な成功パターン」を模倣し、最後に「異職種への転職ならではのポイント」をおさえよう、というシンプルな話である。
それぞれ解説していく。
【1】転職の失敗パターンを避ける
転職において失敗しやすいパターンはある程度決まっており、それは以下である。
- 人間関係の構築が苦手である
- 「5つの壁(会社・業種および職種・言語・管理職・社格)」を3つ以上飛び越えようとしている
- 35歳以上で初めての転職をしようとしている
- 年収等の条件のみで転職しようとしている
このうち、特に重要なのは②(5つの壁を3つ以上超える転職)だ。
未経験での転職は、「5つの壁」のうちの2つ(会社の壁と、職種の壁)を飛び越えるものである。これと同時に他の壁を超えようとするのは、かなり危険である。
「未経験職種のマネージャー」にいきなり転職してしまった方を人事として何名か見ているが、ひとつ残らず失敗している。(試用期間で辞めた方も複数いる)
②(5つの壁を3つ以上超える転職)以外は何とかなる場合も多いが、②を外すとかなりの確率で失敗する。
上記の失敗パターン(①~④)については以下の記事に詳しく記載したので、必要に応じて参考にしてほしい。
>>転職に失敗したらどうなる?どうすればいい?人事のプロが本音で解説
【2】転職が成功しやすい行動をとる
転職の成否は「転職先そのもの」だけではなく、「あなたが転職先でとった行動」で決まる部分も大きい。
よって、転職が成功しやすい行動を知っておくことも重要である。
転職が成功しやすい行動とは、以下である。
- ビジネスのキャッチアップよりも先に、風土に馴染むことに全力を注ぐ
- 人間関係を把握し、主流派に属する
- 過去のチャットや共有フォルダを見る
- 転職直後のパフォーマンスは120%を出しきる
- ハネムーン期、失望期、ニュートラル期のサイクルを意識する
- 自分と周囲の力量差がある分野で力を示す
上記はいずれも重要であるので、一度以下の解説記事を確認していただくと良いかと思う。
>>転職を成功させるには、転職した後がカギ。転職直後にとるべき「6つの行動」
【3】異職種への転職ならではの覚悟と知識を持つ
異職種への転職では、主に以下のような「異業種への転職ならではの苦難」がある。
- 長期間戦力にならないため、周囲から厳しい目が向けられがちである(経験者と比べ、転職先での良好な人間関係を築きにくい)
- 職種による文化の違いに苦しめられる
- 未経験であることにより、転職時に給与が低下することが多い
- 自分より職種歴が長い「年下の部下」がいる場合が多い
すでに述べたが、「ゼロからのスタート」というのは、想像以上にキツいものである。
「上記のような苦難はあって当たり前で、それに対する覚悟は出来ている」という場合にのみ転職するのが良いと思う。
また、異業種への転職で知っておきたい知識として、職種によっては「未経験でもやりやすい業務」というものがあることがある。
例えば、筆者の専門性である人事であれば、「採用業務」がそれにあたる。
「何が未経験でもやりやすい業務なのか」は各職種の実務家しか分からないが、多くは以下の条件を満たすことが多い。
- 誰でもイメージしやすい(人事といえば採用と思っている人も多い)
- 他のメジャーな職種のノウハウが生かせる(例えば採用と、営業・マーケティングは相互に近い)
- 特殊な専門性というよりも、汎用のソフトスキルが重要である(例えば、コミュニケーション能力等)
イメージもしにくく、労働法や組合対応等の特殊な専門性があるためです。
この「未経験でもやりやすい業務」を知り、そのポジションを探して転職する方法はおすすめである。
「未経験でもやりやすい業務」は、現在の企業でその職種に就いている人に聞けば分かるほか、面接の逆質問で教えてもらうことも可能である。
>>【転職面接】逆質問の教科書|おすすめ質問の具体例、一次面接から最終面接まで全網羅
30代が未経験職種への転職で使うべき転職サイト・エージェント
最後に、30代が未経験職種への転職で使うべき転職サイト・エージェントについても触れておく。
30代の未経験職種への転職では、一般的な「求人掲載型の転職サイト(例:リクナビNEXT)」で、1から探すのはおすすめできない。
その理由は、(すでに述べたが)30代で未経験OKというと、ややブラックな企業に入る可能性が出てくるからである。
自分で企業をフィルタリングできるだけの知見があるのであれば別だが、そうでなければ転職エージェントを活用すべきだと思う。
経験のある転職エージェントに、「未経験でも意欲と基礎能力で採用する」「未経験者を育成するつもりがある」マネージャーがいる「優良企業」を紹介してもらうのがおすすめである。
筆者自身、人事未経験の30代を何度か採用し、人事として育成した経験があります。
転職エージェントによっては、30代で年収を下げて未経験職種に転職する人を嫌がる可能性もあるのだが、そうではない(=良い)エージェントも多い。
様々なサイトを用いて自分に合う最高のエージェントに会うことが、未経験職種への転職を成功させる第一歩である。
しかしながら、自分と相性の良い最高のエージェントには、一朝一夕で知り合うことが出来ない。
これを解決するためには、以下の記事の「ゆるゆる転職(転職サイトに登録と経歴掲載だけしておき、良い求人とエージェントが集まるのを待つ)」をすることがおすすめだ。
まとめ
30代での未経験職種への転職は可能ではあるものの、厳しい道のりになる。
しかしながら、本記事でご紹介した知識やテクニックを使えば、その厳しさはかなり緩和される。