クレーマー的な市民の窓口対応に疲れ、やりがいもなく、何より数年やっていても自身の成長を感じません。
安定はしていてありがたいなと思うのですが、このままの人生は嫌だなと心底思います。
公務員を辞めて後悔しないのかや、公務員から民間に転職して通用するのかどうか、おすすめ転職先などがあれば教えてください。
今回のテーマは「公務員を辞めて民間企業に転職したい方の教科書」である。
結論から申し上げると「公務員から民間企業への転職はスピード勝負であり、なおかつ転職先にも吟味が必要。注意すべき点が多いため、全て網羅して記載していく」という内容の記事になっている。
しかしながら、人事のプロフェッショナルとして「公務員からの転職者やその成功例・失敗例」を多く見てきているため、その知見から本記事を書いています。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
この記事を読むことで、脱・公務員を果たし、民間企業で活躍するビジネスパーソンにキャリアチェンジすることが出来るようになるだろう。
また、国家一種に合格し省庁に入った方、つまりいわゆるキャリア官僚は対象にしていません。
【結論】公務員を辞めたい人が知るべきたった一つのこと
結論からすると、公務員を辞めたいのであれば、スピードが勝負である。
直截に言えば、出来る限り早く辞めることが重要であるということだ。
他の転職情報サイトでは「公務員のPCスキルやコミュニケーション能力は民間でも即戦力」等と書いてあることもあるが、それは残念ながら甘い見立てである。
とはいえ、公務員も社会人なので、社会人経験として役に立つ部分はある。完全に新人と同じスタートとまでは言えないかもしれない。
そういう意味では、「社会人としてのコミュニケーション能力」はある程度役に立つだろう。
しかしながら、それ以外ではほぼ、公務員から民間企業への転職で引き継げるスキルはないと思ったほうが良い。
公務員からの転職者を多く見てきた経験から、よほど専門性が合う特殊な転職以外ではそうなると断言する。
だから、公務員を辞めたい人が知るべきたった一つのことは以下である。
【前提】公務員を辞めたい理由
前提として、公務員を辞めたい方が多くなっている理由を簡単に確認しておこう。
実際には千差万別の理由があると思うが、典型的な理由は以下である。
- 仕事にやりがいがない
- 定型業務が多いため成長しない/スキルがつかない
- 給与や昇進が年功序列であり、上がりにくく納得性もない
- 議員対応や市民対応等、ストレスのかかる業務がある
- 人間関係が閉鎖的・硬直的である
- 働かない中高年が腹立たしい
次項で述べるが、これらは全て「公務員であることのデメリット」そのものである。
【後悔しないために】公務員でいることのメリット・デメリット
公務員を辞めたい方の中には、辞めて後悔しないかどうかが気になっている方も多いと思う。
後悔するかどうかについては「人による」が誠実な答えだと思うので、これから紹介するメリット・デメリットを勘案し、どちらが大きいのかを個々人で考えてほしい。
公務員を辞めないことのメリット
公務員を辞めないことの主なメリットは、以下である。
- 労働対報酬のコスパが良い
- 雇用や労働条件が安定している
- 信用がある・世間体が良い
それぞれ簡単に触れていく。
労働対報酬のコスパが良い
筆者にも各省庁や都道府県庁に勤務する知り合いがいるが、話を聞く限り事務職の公務員の非効率さはかなりのものである。
実際、公務員から転職してきた方は、民間企業で求められるスピード感や求められる改善の度合いに驚くことが多い。
その一方で、多くの場合、公務員の給与は大企業を基に定められており、特に地方では高給の代名詞である。
つまり、労働の成果(労働時間ではない)に対して、支払われる報酬が非常に高い(=労働対報酬のコスパが良い)というのが公務員の大きなメリットであると言える。
よってこれは、れっきとしたメリットであると言えるでしょう。
雇用や労働条件が安定している
言うまでもないが、公務員の雇用や労働条件の守られ方は異常なほどである。
雇用で言えば、民間企業であれば試用期間でクビになるような人材でも、定年まで守られる。
雇用や給与だけでなく、各種休職制度なども大企業よりも充実しており、なおかつその改悪が(民間企業よりも)はるかに難しい。
公務員の雇用および労働条件の安定性は、非常に高いと言える。
信用がある・世間体が良い
最後に、公務員は並みの大企業では太刀打ちできないほどの信用力・世間体の良さを持つ。
雇用や収入の安定性は誰もが知るところであり、結果としてローンの利用から結婚まで、多くの場面で有利である。
公務員を辞めないことのデメリット
公務員を辞めないことの主なデメリットについては、既に述べた「公務員を辞めたい理由」そのものである。
念のため再掲しておく。
- 仕事にやりがいがない
- 定型業務が多いため成長しない/スキルがつかない
- 給与や昇進が年功序列であり、上がりにくく納得性もない
- 議員対応や市民対応等、ストレスのかかる業務がある
- 人間関係が閉鎖的・硬直的である
- 働かない中高年が腹立たしい
上記の全てを感じている人は多くないかもしれないが、多くの公務員が上記のような不満から民間企業に転職してくるのは事実である。
前項で述べた通り、公務員は「デキない公務員を守る」のは得意である一方、「デキる公務員」を優遇するのは苦手である。
筆者の観察によると、最近では若く向上心があり、デキる公務員から辞めていく印象である。
【本音】公務員から民間企業は通用するか?公務員の市場価値はどうなのか?
このまま公務員を続けると後悔する、と分かった場合、また別の疑問が控えている。
それは、「公務員から民間企業に転職して、自分は通用するのか」である。
プロとして本音を言うと、多くの場合「そのままでは通用しない」が率直な回答である。
まず、公務員と民間企業では、経済的な目的とそれがもたらす環境が異なる。
公務員の経済的な目的は「予算を使い切ること」であるが、民間企業では「利益を最大化し続けること」である。
この目的の違いから、職場環境として以下のような違いが生じてくる。
- 日々のスピード感
- 成長へのプレッシャーの大きさ(評価や雇用に関するプレッシャーの大きさを含む)
- 効率化へのプレッシャーの大きさ
- コミュニケーションの目的(議員や市民や周囲を怒らせない vs 正しいことを通す)
上記の職場としての違いから、個人の成長においても以下のような項目で大きな差がついてしまうことになる。
- 市場で通用する専門性の獲得(日々のスピード感や、成長・雇用に関するプレッシャーから)
- 各種ITスキル(効率化へのプレッシャーから)
- 論理的思考力およびそれを基にしたコミュニケーション能力(コミュニケーションの目的の違いから)
- 発言や改善を行う意欲(成長・雇用に関するプレッシャーから)
上記は事務系ビジネスパーソンのソフトスキルの中でもかなり多くを占める。
ここで大きな差がついてしまうので、「公務員から民間企業への転職では、そのままでは通用しない」となる。実際に、よほど分野が被っていない限り、市場価値としても評価はされない。
次項では、公務員を辞めても通用するパターンについてご紹介します。
公務員から民間企業に転職する際の成功パターン
「公務員から民間企業への転職では、そのままでは通用しない」と書いた。
しかしながら、筆者が人事として様々な転職者を見てきた中で、以下のパターンであれば成功しやすい(=通用するようになる)ことが分かっている。
- 公務員でやってきたこととほぼ同じ業務を民間企業で行う場合
- 公務員になってから3年以内の場合
- 30歳以下の場合、またはそれ以上の年齢でも適応力(ラーニングアジリティ)に自信がある場合
- 文化の違い、給与の低下、年下の部下などを受け入れ、1から学び直す覚悟がある場合
- 公務員のあらゆる要素が嫌いな場合
それぞれ簡単に解説していく。
公務員でやってきたこととほぼ同じ業務を民間企業で行う場合
これについては説明不要だろう。
かなり特殊な場合ではあるが、業務内容がほぼ同じだと確信できるのであれば、公的機関でも民間企業でも同じように活躍できる可能性が高い。
公務員になってから3年以内の場合
まだ「公務員の常識=自分の常識」になり切っていない場合には、転職後に環境に慣れることが容易であり、成果を出しやすい。
所属組織の常識が当たり前になるまでには意外と時間がかかるもので、筆者の経験上、3年程度を有する。
公務員歴が3年以内であれば、脱出は比較的容易である。
30歳以下の場合、またはそれ以上の年齢でも適応力(ラーニングアジリティ)に自信がある場合
公務員から民間企業に転職する場合に限らず、畢竟、新しい環境への移行では「適応力があるかどうか」が成功のカギである。
人材開発分野における研究により、適応力は「生まれ持った性格や気質に大きく影響される」ことが分かっているので、まさに個人次第なのだが、年齢とともに失われやすい要素でもある。
そういった意味で、概ね30歳以下であることは「公務員→民間企業」の転職において有利に働くだろう。
また、当然ではあるが「適応力」そのものに自信がある場合は、30歳を超えていても問題ない。
この辺りについては「ラーニングアジリティ」という言葉で以下の記事にも書いたので、必要に応じて参考にしてほしい。
文化の違い、給与の低下、年下の部下などを受け入れ、1から学び直す覚悟がある場合
全く新しい業務でも、若くなくても、適応力に自信がなくても、覚悟があるなら(時間はかかるものの)成功の可能性はある。
この場合の覚悟とは、文化の違いをはじめとして、転職時の給与の低下、年下の部下など、公務員では起こりにくいことを受け入れる覚悟である。
ただし、覚悟があっても、心がついてこず、鬱や適応障害になってしまうリスクはあるので、注意点として述べておく。
このリスクの低減方法は、次項でお話します。
公務員のあらゆる要素が嫌いな場合
どんな仕事でも、向き不向きというものがある。
そして、様々な事情で「向いていない仕事」に就いてしまうことはある。
本来は公務員に全く向いていないのに公務員になってしまった場合、公務員のあらゆる要素が嫌いだと感じられるはずだ。
例えば、公務員として働く中で頻繁に以下のように感じる方は、本来は民間企業にいるべき人材だったと思われる。
- 日々のスピード感のなさが嫌いである
- 成長へのプレッシャーのなさが嫌いである
- 効率化へのプレッシャーのなさが嫌いである
- コミュニケーションの目的が「正しいことを通す」でなく「波風を立てない」ことであることが嫌いである
- 成功も失敗もない業務が嫌いである
- 優秀な人間とそうでない人間で差がつかない人事制度が嫌いである
- 働かない中高年がクビにならないことに腹が立つ
- 同僚のコスト意識のなさや改善意識のなさに腹が立つ
普通の公務員でも上記の一つや二つは感じるであろうが、ほぼ全てを感じる場合には、生来、公務員が肌に合わない人材であろう。
その場合には、逆に民間企業には合いやすいはずだ。
【重要】公務員から民間企業に転職する際の、おすすめ転職先
最後に、公務員から民間企業に転職する際の、おすすめ転職先について解説する。
これは、前項で挙げた以下の「成功パターン」にどの程度当てはまるかによって異なる。
- 公務員でやってきたこととほぼ同じ業務を民間企業で行う場合
- 公務員になってから3年以内の場合
- 30歳以下の場合、またはそれ以上の年齢でも適応力(ラーニングアジリティ)に自信がある場合
- 文化の違い、給与の低下、年下の部下などを受け入れ、1から学び直す覚悟がある場合
- 公務員のあらゆる要素が嫌いな場合
全てに当てはまらない方(0項目)は、そもそも民間に転職すべきでない。
逆に、複数の項目(2~5項目)が明確に当てはまる方は、成功パターンに入っているため、心配する必要はない。
だから、問題は1項目だけに当てはまる方、特に「学び直す覚悟はあると思っているけど鬱にはなりたくない」「公務員は嫌いだけど、あらゆる要素が嫌いとまでは行かない」という方だ。
しかしながら、1項目にだけ当てはまる方であっても、心配はいらない。元・公務員におすすめの転職先というものがある。
それは、言葉を選ばず言うと「民間企業の中で古臭い業界」である。
具体的に業種を言えば、鉄鋼業界やインフラ・交通業界、重厚長大のメーカー業界などが典型例である。
さらに具体的に言えば、当サイトでは「昭和の企業」「ザ・日本企業」と言われがちな以下のような会社や、その子会社・同業他社がねらい目である。
こういった業種・企業やその子会社は、民間企業と公務員の間のような社風を持つことが多い。
当サイト「転職参謀」のメイン読者である「20代~30代の民間企業のビジネスパーソン」にはおすすめしていないが、公務員からの転職という意味では非常に良いステップになり得る。
最後に、(言わずとも分かると思うが)逆に公務員からは転職をおすすめできない業種についても触れておく。
それは、外資系企業、ベンチャー企業、(ベンチャー企業と被るが)IT系企業である。この辺りは公務員と真逆の文化である可能性が高いので、辞めておいた方が無難だ。
まとめ
公務員から民間企業への転職のハードルの高さを強調した記事になってしまったが、公務員は民間並みに効率化して人を減らし、コストを抑えるべきだと強く思っているので、個人的には読者の転職を応援したい。
ただし、この記事の読者は(民間への転職を検討している時点で)公務員の中では比較的優れたビジネス感覚を持っている方だと思う。
よって、もし民間への転職をせず公務員の立場に留まる決断をされた場合には、勝手ながら、将来的に職場の改革に辣腕をふるっていただくことを期待したい。