齋藤さんも色々と転職のテクニックを解説されていると思うのですが、軸ずらし転職とはどういったものなのでしょうか?
軸ずらし転職の意味と、実際の具体的なやり方を教えていただけますでしょうか。
今回のテーマは「軸ずらし転職」である。
結論から申し上げると「軸ずらし転職とは、業種もしくは職種のどちらか(の軸)を年収の高い業種もしくは年収の高い職種にずらすキャリアアップのテクニックのこと。やり方には注意点があるので、解説していく」という内容の記事になっている。
特に外資系でキャリアアップしている人は(言葉は知らずとも)かなりの方が実践済なのではないかな、と思います。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
この記事を読むことで、軸ずらし転職の意味と実行方法が分かり、自身のキャリア構築に役立てることが出来るだろう。
結論
本記事の結論を箇条書きで簡潔に記載しておく。
- 軸ずらし転職とは、業種もしくは職種のどちらか(の軸)を「より年収の高いほう」にずらす、キャリアアップのテクニック
- 軸ずらし転職の基本は、同じ仕事(職種)をしつつ、「年収が低い業種」から「年収が高い業種」に移ること
- 年収が高い業種の典型例は、金融業界、IT・通信業界、医薬品・メディカル業界
軸ずらし転職とは?なぜ軸ずらし転職が有効なのか?
まず、軸ずらし転職とは何か、およびその有効性について解説する。
軸ずらし転職とは
軸ずらし転職とは、キャリアアップのテクニックの一つである。
転職で年収を上げるため、「業種」か「職種」のどちらかの軸で自分のポジションを「年収の高い業界」または「年収の高い職種」にずらすことを言う。
「軸ずらし転職」自体は新しい言葉だが、(名前がついていなかっただけで)昔からある王道のキャリアアップテクニックである。
筆者自身、4回の転職の中でこの「軸ずらし転職」に当てはまる転職を何度かしてきている。
軸ずらし転職は有効なのか?また、それはなぜか?
具体例を後ほど説明するが、軸ずらし転職のテクニックは特に「業種」を変える際に有効である。
その理由は、日本の労働市場では、年収が「職種」でなく「企業規模」と「業種」で決まる面が大きいからである。
まず、分かり易い「企業規模」から説明しよう。
同じ「人事」という職種で業務内容が近くても、一般に中堅企業よりも大企業でやるほうが年収は高い。
具体的に言えば、沖電気や船井電機の人事よりも、日立やソニーの人事の方が平均年収が高いはずである。
もう一つの年収を大きく左右する要素が「業種」である。
企業の平均年収は、業種ごとの利益率に引っ張られることが多く、明らかに「年収が高い業種」、明らかに「年収が低い業種」がある。
例えば、厚生労働省が出している「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、最も年収が高いのは金融業・保険業で、低いのは宿泊業・飲食サービス業である。
最も年収が高くなる「50~54歳の男性」で比較すると、以下のように2倍程度の差がある。
- 金融業・保険業:月収63.61万円
- 宿泊業・飲食サービス業:月収32.42万円
よって、軸ずらし転職の基本は、同じ仕事(職種)をしつつ、年収が低い業種から年収が高い業種に移る、ということになる。
同じ仕事でも年収が違う理由
先ほどの例で、金融業は「投資銀行部門や金融ディーラーが稼いでいる」、宿泊業・飲食サービス業は「付加価値が小さくアルバイトと変わらない労働が多い」からこの差がある、と考える人はいるだろう。
つまり、「やっていることが違うからだ」というわけである。
合理的な考えだとは思うが、実際にはそうなっていない。
実際は、「やっていること(職種)が同じでも、業種が違えば差が出る」のである。平均すれば、金融業の人事の方が、宿泊業・飲食サービス業の人事より倍近くもらっているのである。
こうなってしまう理由は、「日本の慣行上、同じ会社であれば、職種が違っても年収に差をつけにくい」からである。
差をつけにくい理由は以下の2つである。
- 日本の新卒採用では「配属を会社が決める」のが基本であるため、配属(=職種)によって年収が変わることに納得感がないから
- 大企業には「異動」、会社によっては「社内公募制度」まであり、職種によって年収が変わることが流動性を阻害するから
①は分かり易いと思うので、②のみ解説しておく。
大企業には「異動」があり、エンジニアから人事になったり、経理から経営企画になったりする人がいる。
企業によっては「社内公募制度」としてキャリア制度にしているところもあるし、そういった制度がなくても希望に応じて異動させる例は多い。
こういった際に「エンジニアから人事に挑戦すると年収がマイナス200万円。職種が違うのだから」とすると、異動する人はいなくなってしまう。
新卒採用での配属問題(①)もあり、日本では職種別に年収を大きく変えないのが主流なのである。
「日本の慣行上、同じ会社であれば、職種が違っても年収に差をつけにくい」ため、儲かりやすい金融業(A証券)の人事は年収が高く、儲かりにくい宿泊業(Bホテル)の人事は年収が低くなる。
金融業と宿泊業の人事の仕事が、ほぼ同じであってもそうなるのである。
【具体例】軸ずらし転職の方法。異業種転職は簡単だが異職種転職は要注意
ここからは「年収の高い業種」または「年収の高い職種」への具体的な軸ずらし転職の方法について解説する。
年収の高い業種への軸ずらし転職
繰り返すが、業種を変えるのが軸ずらし転職の基本である。
「異業種転職の教科書|成功率やメリット、失敗しないための対策、おすすめの業界まで」にも記載したが、実は6~8割の転職が異業種転職にあたる。
そのため、異業種転職に特殊なやり方はない。
ただし、通常の転職と同様、以下のこと(転職を成功させるには、転職した後がカギ。転職直後にとるべき6つの行動より)に気を付ける必要はあるだろう。
- ビジネスのキャッチアップよりも先に、風土に馴染むことに全力を注ぐ
- 人間関係を把握し、主流派に属する
- 過去のチャットや共有フォルダを見る
- 転職直後のパフォーマンスは120%を出しきる
- ハネムーン期、失望期、ニュートラル期のサイクルを意識する
- 自分と周囲の力量差がある分野で力を示す
「業種」軸での軸ずらし転職で目指すべき、具体的な「年収の高い業種」については、以下である。
- 金融業界
- IT・通信業界
- 医薬品・メディカル業界
現在と同じ仕事(職種)が上記の業界にあるのであれば、「業種」軸の軸ずらし転職はおすすめである。
また、最近はメーカー(特に半導体系)も高い年収オファーを出す業界になっています。
年収の高い職種への軸ずらし転職
「30代での未経験職種の転職で絶対におさえておきたいことを人事プロが解説」にも書いたが、未経験職種への転職は難しい。
現実的かつ効果的な(職種での)軸ずらし転職は、「20代~30代前半による、年収の高い未経験職種への軸ずらし転職」だけだろう。
学歴やポテンシャルが問われるものが多いが、一般的には以下のような職種が「年収の高い職種」と言える。
- コンサルタント
- 経営企画・事業企画
- 営業(インセンティブ制度などにもよる)
- ITエンジニア
職種での軸ずらし転職をしたい方は、「職種別 モデル年収平均ランキング」のようなリストから自分のなりたい職種を探すのもいいだろう。
軸ずらし転職に向いた転職エージェント
本来、軸ずらし転職に向いた転職エージェントというものはない。
ないのだが、「こういうエージェントであれば軸ずらし転職のコンセプトをすぐに理解し、合う求人をもってきてくれるだろう」というアドバイスはある。
軸ずらし転職は、転職によりキャリアアップしてきたビジネスパーソンであれば既にやっているテクニックである。
よって、ある程度転職でキャリアアップしてきたビジネスパーソンを相手にするエージェントであれば、軸ずらし転職にも詳しい。
もっと具体的に言えば、「ミドルクラス以上の求人を中心に扱うエージェント」であれば軸ずらし転職のコンセプトをすぐに理解し、アドバイスをくれるだろう。
ミドルクラス・ハイクラスを扱うエージェントでの筆者のおすすめは、いつも書いている通りJACリクルートメントである。
まとめ
軸ずらし転職は、率直に言うと「年収がアップする異業種転職」とほぼ同義である。
人事の世界では、昔から「外資系IT企業の人事、外資系金融の人事、外資系製薬の人事」の3つが高年収だと知られていたし、これは経理や営業でも同じである。
「軸ずらし転職」という言葉を覚える必要はないが、キャリアアップのテクニックとしては基本かつ有効なので覚えておくといいだろう。