現在、出版業界でマーケティングをしています。
ご存知かと思いますが、出版は業界全体の市場規模が年々減ってきており、将来性があるとは言えません。
そこで、マーケティングのスキルを活かし、別の業界(業種)に移ろうと思っています。
異業種転職における注意点やメリット、警告、アドバイスなどありましたらお願いできますでしょうか。
今回のテーマは「異業種への転職」である。
結論から言えば、異業種への転職は普通の転職とあまり変わらない。というのも、異業種への転職は非常に多く、(業界にもよるが)転職の6~8割程度は異業種への転職であるからである。
この記事では、メリットや失敗しないための対策、おすすめの業界まで網羅的に扱っています。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
この記事を読むことで、異業種転職にチャレンジする自信がつくとともに、実現のための準備を進められる状態になるだろう。
【成功率】異業種転職は一般的、失敗する確率は低い
まず、成功率からいこう。
実は、異業種への転職は、同業種への転職より多い。以下は業種別の「異業種からの転職」の割合である。
出典:doda「30,000人の転職事例が示す、異業種転職の割合が高い業種は?【2021年最新データ】」
最も異業種転職が少ないメーカーでも半分以上が異業種転職であり、最も多い商社では9割近くが異業種転職であることが分かる。
全体として、概ね6~8割は異業種転職だと言えるのではないだろうか。
転職の多くを占めるのが異業種転職であるため、異業種転職の成功率は転職全体の成功率とあまり変わらないことが分かる。
それでは、転職全体の成功率とはどの程度なのか。
「【転職はハイリスク】人事プロが教える、転職より前に検討すべき3つの選択肢」に記載したが、以下のとおりである。
- 約4人に1人(26.1%)が「失敗」
- 約6人に1人(16.4%)が「成功」
- 残り全て(57.4%)が「どちらでもない」
出典:マクロミルのデータをもとにしたLIVE EVILによる分析
成功確率は高くないが、「どちらでもない」を含めた失敗しない確率は高く、4人に3人は失敗しないといえる。
異業種転職であっても、これと同じような成功率・失敗率になると思えばいいだろう。
【利点】異業種転職で得られる2つのメリット
異業種転職は一般的ではあるのだが、同業種転職では得にくい2つのメリットが存在する。
- 同じ職種・同じ業務で年収を上げられる
- 職種の専門性や対応できる仕事の幅を広げることができる
それぞれ簡単に解説していこう。
【1】同じ職種・同じ業務で年収を上げられる
年収というのは、職種だけでなく業種によっても相場がある。
当たり前といえば当たり前なのだが、これはチャンスなのである。
同「職」種で、異「業」種に転職することで、同じような仕事をしながらも年収を上げることが可能だからである。
例を出そう。国税庁によると、金融業・保険業の平均年収は630万円、宿泊業・飲食サービス業の平均年収は251万円である。
これには、金融業には投資・金融の専門家がいるから高い、飲食サービス業には比較的単純な労働に従事している方が多いから低い、という面もある。
しかしながら、業種が違ってもかなり似た仕事をこなす職種、例えば人事や経理でもこの差額の多くは享受できる。
「金融業・保険業の人事の平均年収は630万円、宿泊業・飲食サービス業の人事の平均年収は251万円」とまで違うとは言わない。
しかしながら、例えば金融業・保険業の人事の平均年収は500万円、宿泊業・飲食サービス業の人事の平均年収は251万円、程度には違ってくるだろう。
この場合、宿泊業・飲食サービス業の人事から金融業・保険業の人事に転職できれば、年収は約2倍である。
そして、こういったことは転職市場ではよく起こるのである。
【2】職種の専門性や対応できる仕事の幅を広げることができる
異業種転職は一般的な転職であると述べた。
実際に異業種転職では、職種が変わるほどにはやることは変わらない。
ただし、全く変わらないというわけではなく、業界(業種)の状況に合わせた学びが必要となる。
筆者の経験で言えば、人事としての顧客が「医薬業界ではMRや研究者」「総合電機では電気/メカエンジニアや工場労働者」「ITではSEやデザイナー」と、ほぼ別の種族と言ってもよいくらい考え方や動き方が異なった。
それに伴い、当然ながら作るべき人事制度や対処すべき課題、必要なコミュニケーション等も全く違ってきた。
これらに対応したことにより、専門性は深く、対応できる課題の幅は広くなっていった。
これは人事以外の職種でも同じである。
異業種への転職により、専門性を磨き、キャリアにおける武器を増やすことができるだろう。
【対策】異業種転職に失敗しないために
異「職」種への転職はかなり難しく、失敗するケースも多い。
しかしながら、ここまで述べてきた通り、異「業」種への転職はかなり一般的である。よって、率直に申し上げて異業種転職だから特別な対策が必要だということはない。
冒頭で述べた通り、筆者は4回の転職で4つの業種(総合電機、IT、ヘルスケア、コンサルティングファーム)を経験している。
対策としては入社前に業界の本を読んだり、入社後に共有フォルダや周囲の人間から学習したりするだけであったが、十分キャッチアップし、成果を出すことができた。
ただし、(当然だが)異業種転職でも失敗はあり得る。よって、通常の転職と同じような努力は必要である。
転職後に必要な努力については「転職を成功させるには、転職した後がカギ。転職直後にとるべき6つの行動」に記載しているので、必要に応じて参考にしてほしい。端的に言えば、以下の行動が重要である。
- ビジネスのキャッチアップよりも先に、風土に馴染むことに全力を注ぐ
- 人間関係を把握し、主流派に属する
- 過去のチャットや共有フォルダを見る
- 転職直後のパフォーマンスは120%を出しきる
- ハネムーン期、失望期、ニュートラル期のサイクルを意識する
- 自分と周囲の力量差がある分野で力を示す
【転職先】異業種転職におすすめの業界
本記事では、一貫して異業種への転職はむしろ多数派だと述べてきた。
よって、基本的に「異業種への転職ならこの業界がおすすめ」というものはないのだが、アドバイスとして2つの視点を提示して終えたいと思う。
Will/Can/Must
聞いたことがある方が大半だと思うが、人事やキャリアの世界で多用されるフレームワークに、「Will/Can/Must」というものがある。
順に「Will=やりたいこと、Can=できること、Must=やらなければならないこと」であり、これが重なるところであればやりがいをもって仕事ができる、というものである。
筆者が考える、このフレームワークを転職に適用するときのポイントは以下の3点である。
- 要素として、「Will/Can/Must」の順に重要
- 熟慮しても思い浮かばない要素はスキップしてよい
- Mustはあまり考えなくてよい
まず①の「Will/Can/Must」の順に重要な理由であるが、出来るからと言ってやりたくないことをやっていたら、やりたくないことの専門家になり、やりたくないことをやり続ける人生になる。よって、WillのほうがCanより重要である。また、後述するがMustはあまり重要ではない。
次に②の思い浮かばない要素はスキップしてよい理由であるが、そもそも「本当にやりたいことが分かっている」という人は多くない。Willが固まっていないと動いてはいけない、というルールでは、転職する前に定年になりかねない。まずは動いてみる、という姿勢で軌道修正していくのが賢明だと考える。
最後に③の、Mustはあまり考えなくてよい理由について。
そもそもMustは「やらなければならないこと」「周囲からの期待」という要素であり、「やりたい(Will)」し「できる(Can)」のだが、「誰からも求められていない(Mustではない)」ことを防ぐための項目である。
こう考えると、Mustは転職ではあまり考える必要のない要素であると分かる。企業はその求人ポジションを強く求めているがゆえに採用コストを払って募集しているからである。
考える必要があるとしたら、会社ではなくあなた自身の「やらなければならないこと」、つまり自分や家族を養う収入があるかという点のみであろう。
ハブ・キャリア
基本的には「Will/Can/Must」で考えて決めることをお勧めするが、業種が決まらない方も多いだろう。例えば、以下のようなケースである。
- Will:特にやりたいことはないが、今の環境は嫌だ
- Can:人事の専門性がある
- Must:今と同じ年収がもらえれば十分家族は養える
この場合、Willは無いし、Canでは業種は決められないのだから、Must、つまり年収アップだけで業種を決めるというのが一つの手だ。
その場合、職種にもよるが、金融やIT、ヘルスケア業界などがターゲットになるかもしれない。
もう一つが、ハブ・キャリアという考え方を使うことである。
ハブ・キャリアとは、転職エージェント企業の社長である渡辺 秀和氏が提唱した考え方で、その業界を経ることでその後の転職の選択肢が一気に広くなる業界のことである。
具体的には、インターネット業界とコンサルティング業界の2つが典型である。渡辺氏が挙げた例でいうと、以下である。
- 「証券会社のシステムエンジニア」→「戦略コンサルタント」→「消費財メーカーの経営企画幹部」
- 「医師」→「戦略コンサルタント」→「企業再生ファンド」
一足飛びにはありえない転職が、ハブ・キャリアである「戦略コンサルタント」を経ることで可能になっている。
年収アップのため、またはやりたいことが見つかった時のために、ハブ・キャリアとなる業界に転職しておくのも良いだろう。
まとめ
異業種転職は転職の多数を占めており、基本的には難易度も高くない。
一方で年収アップや専門性の向上が狙えるため、おすすめの転職である。すでに考えている方は、前向きに検討してよいと思う。
それでも不安な方は、業界に通じた転職エージェントに相談すると良い。
例えば、JACリクルートメントは、金融、医薬品(ヘルスケア)、IT等の業種ごとに専門エージェントを置いており、筆者もヘルスケア業界専門のエージェントには随分お世話になったので、異業種転職にはおすすめである。