正社員を試用期間でクビ(解雇)に出来る?人事部長が回答

悩める経営者
私の経営する会社の中途入社者が、想像以上にボンクラでした。
正社員で採用してしまったのですが、スキルが低く、人間関係も築こうとせず、とにかく仕事になりません。
正直、やめてほしいと思っています。
社労士からのアドバイスで、私の会社には3か月の「試用期間」を設けてあるのですが、試用期間が終わったらクビにしてもいいですか?

 

今回は解雇、特に「試用期間における解雇」がテーマである。

結論を言ってしまうと、冒頭の問いに対しての答えは「おそらくダメ」となる。

 

というのも、試用期間で「本採用しない」というのは、法的には「解雇」同等になるためだ。

もちろん本採用してからクビにするのよりは「若干マシ」ではあるが、日本では余程ひどい人材以外は解雇できない。

 

ただし、策はある

筆者自身、実際に試用期間で、直属の部下に去ってもらったことがある

 

経営者(もしくは人事責任者)として、取り得る策を全て挙げてご説明したい。

某企業にて労務・組合対応を嫌になるほどやってきた経験、中でも実際に試用期間で本採用不可とした経験から、このディープなご質問に回答していきたい。

 

簡単に正社員の雇用契約を解除できる場合は限定的

まず、簡単に会社から正社員の雇用契約を解除、つまり解雇できる場合は、あまり多くはない。

弁護士や社労士による解説サイト等において、よく「試用期間は解約権留保付労働契約」などと難しい言葉で解説されていることが多いが、簡単に言えば以下のような場合ならクビに出来る。

 

  1. 勤務態度が極めて悪い場合
  2. 正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返す場合
  3. 本人の経歴に重大な虚偽の事実があったことが発覚した場合

 

要は、雇用関係の前提となる「労務提供」がなされないケースや、本人が嘘をついていたケースであれば解雇できる。

この場合、30日前の予告もしくは30日分以上の平均賃金の支払いを行うことで解雇が可能だ。

 

ただし、実はこのケースでは「試用期間でなくても(本採用してからでも)」クビに出来る。

つまり、これらは判断が比較的容易なケースだと言えるのだ。

 

経営者の方は、こういった簡単なケースでない場合に悩まれることがほとんどであろう。

簡単でないケースとは、例えば以下のような場合である。

 

  1. 勤務態度は悪くない(出社等はしている)が、やる気が見られない場合
  2. 決まった時間働くし反抗的でもないが、職場に溶け込む気が全くない場合
  3. 中途採用なのに言われたことしかやらず、極度に「期待はずれ」の場合

 

こういったケースでは、試用期間中であっても雇用契約解除(解雇)することは出来ない。

 

とはいえ、「給料に見合わない人」をのうのうと雇用しておくのは嫌だ、もっと言えば「自分の大切な会社で給与泥棒を放置したくない」というのが経営者の本音だろう。

法的に「解雇」出来ない場合でも、対処法はある

 

次の項では、私が実際に何度か携わった「実務的な対処法」についてお話していきたい。

 

試用期間で雇用中の正社員を解雇したい場合にとるべきステップ

さて、ここまでは法律の話。弁護士や社労士ならだれでも知っているし、それだけでは役に立たない。

ここからが人事労務のプロとしての話となる。

 

本人と定期的な話し合いの場を設ける

兎にも角にも、まず本人との定期的な話し合いの場を設けよう。

 

これには二つの意味がある。

一つは、本人の状況を深く知ることで、「本人が抱える問題は何なのか」「その問題において、本人はどの程度悪いのか」「改善するためのアドバイスはあるか」などを考える機会が得られるということである。

 

この「情報収集(状況把握)」は、いわば表の目的だ。

 

齋藤
軽視されがちですが、このプロセスは重要です。
情報収集する中で、実は「先輩社員と合わず、周りから悪く言われてしまっているだけ」「本人の志向と業務がミスマッチしているだけ」などの事情が分かってくることもあります。

 

もう一つ、裏の目的とも言うべきものが「証拠集め」である。

本人との話し合いにより、「本人がどこまで認め、どこから認識の相違が出て来るのか」を知ることが出来る。

 

当事者である本人のコメントの全てが、後々トラブルに発展したときや、他の社員の言っていることと整合していないときの武器として使える。

 

本人との話し合いは、まずは直属の上司が行うのが良いと思うが、場合によっては人事(小規模な会社なら、社長)が実施してもよい。

その際には、可能な限り日付や状況を記したメモをきちんととるようにすべきである。

 

尚、相手の悪質性や情緒不安定さがひどい場合、また相手が女性だったりする場合には、一人で面談するのはやめた方がよい。

 

齋藤
大企業での構造改革の時も、「モンスター社員」や「女性社員」には2人で当たるのが基本です。
後から「○○と暴言を吐かれた」「○○された」と虚言を言われることもあり得るからです。

 

なお、病気が疑われる場合には、この時点で産業医面談をすすめることもある。

50人未満の事業所であり、産業医がいない場合には、「地域産業保健センター」を利用するのもいいだろう。(無料である)

 

改善されないと本採用は難しいと伝える

多くの場合、本人との面談の中で「本人の方に改善すべき点がある」と分かってくるのではないかと思う。

この場合、早いタイミングで本人に「改善しないと本採用は難しい」とはっきり伝えるべきである。

 

トラブルになるケースの多くが、試用期間ぎりぎりで「雇用できない」と伝える場合である。

「ああ、やっぱりそうですよね・・・」というケースもない訳ではないが、通常、これは本人を驚かせてしまう。

 

日本人は、こういった「厳しいコミュニケーション」を避けがちだが、可能な限り「共通理解」を持つことが重要だ。

この「共通理解」がうまく出来た場合に、「本人からの申し出での退職」に持ち込めるからだ。

 

会社として改善策をとる

基本的に、試用期間での解雇は会社にとってハードルが高い。

少しでもその可能性があるのであれば、「会社として出来ることはすべてやった」という実績が必要である。

 

「会社として出来ること」とは、一般的には以下のようなものが挙げられる。

 

  • スキル不足の場合は、指導担当者を付けて指導する
  • 業務のミスマッチの場合には、配置転換を打診する
  • 本人の意見も聞き、本人が力を発揮するための障害要素を出来る限り取り除く(人間関係など)

 

面談や日々の業務における記録をとる

先ほども触れたが、重要なのでもう一度。

面談の記録をとろう。最悪の場合、裁判資料になるのでそのつもりで。

 

さらに、日々の業務をマネージャー以上のメンバーでよく見ておこう。

指導した点においてどういった改善が見られるのか、逆に見られないのか等も記録しておく。

 

試用期間とは、社員を「出来る」と確認する期間と思われている。

ただ実際には、それに加えて出来ない社員を「出来ない」とみなす証拠集めの期間でもあるのだ。

 

試用期間を延長する

「そうはいっても、もう試用期間の終わり間近」という場合もあるだろう。

その場合には、試用期間延長という手段がある。

 

ただし、試用期間を延長するためには以下の条件を全て満たさなければならない。

 

  1. 合理的な理由・特段の事情がある
  2. 就業規則で試用期間の延長について規定されている場合
  3. 労働者への事前通知・合意がある場合

 

満たしにくいのは2つ目の「就業規則に書いておく」ということである。

ここは事前準備が必要なので、満たしていなければこの手順はスキップしよう。

 

これらをすべて満たし、延長する場合には試用期間延長する旨とその理由、そして延長期間を本人に伝えよう。

詳しくは「大企業はどう試用期間で解雇しているのかご紹介」で後述する。

 

本人をさらに説得、場合により退職勧奨をする

ダメ社員対応として、試用期間(試用延長期間を含む)で目指すゴールは「本人から辞めてもらう」ことである。

最初にも申し上げた通り「本採用不可」というのはほぼ解雇であり、あらゆる手を打っても雇用出来ないということを立証する必要があるので難しい。

 

ただし、「退職を視野に入れることをおすすめ」することは出来る。

よく誤解している方がいるが、「退職してもらえないか」と社員に対して言うのは退職勧奨であり、これは違法ではない。

 

ただし、一日に何度も面談するなど、度が過ぎると「退職強要」になり、これは違法なので注意が必要だ。

あくまで、本人の納得を得ることを目指して「説得」するのが最初で、もしそれでダメなら「勧奨(おすすめ)」までは可能、ということである。

 

解雇に踏み切るかどうかを検討する

ここまでやってダメなら、リスクをとって解雇する、もしくは雇い続けるかどうかを決断することになる。

 

正直に言って、解雇が正当とみなされるか、不当とみなされるかは、かなりグレーである。

いくつか判例を紹介しておこう。

 

解雇が正当と判断された事例はこちら。

採用前に提出したレポートなどにより日本語による実務能力について十分な能力があると判断して採用された韓国人従業員について、実際には日本語による実務能力がなかったため解雇したケース(東京地方裁判所平成25年 1月31日判決)

他社での社会人経験が長いにもかかわらず、協調性を欠き他の職員との間のトラブルも絶えなかったため、解雇したケース(東京地方裁判所平成25年 3月29日判決)

出典:「弁護士法人 咲くやこの花法律事務所」

 

逆に、解雇が不当と判断された事例はこちら。

他の証券会社で7年間の営業職経験のある従業員を中途採用したが、営業開始後3か月間の営業成績が他の従業員と比べて劣ることを理由に、試用期間の満了を待たずに解雇したケース(東京地方裁判所平成21年1月30日判決)

社会保険労務士法人が、試用期間中の従業員が顧客から依頼された雇用保険の手続を行うに際し顧客に対する意向確認が不十分のまま手続をしたことなどを理由に、解雇したケース(福岡地方裁判所平成25年 9月19日判決)

 

出典:「弁護士法人 咲くやこの花法律事務所」

 

背景事情により正当とみなされるか、不当とみなされるかは様々であるため、リスクがありそうであれば弁護士に相談するのも一つの方法である。

 

ここで重要な点を一つ言っておくと、「本人の能力や意欲が不足」→「上司の指導や周りのサポートがあった」→「それでもダメなのでやむなく本採用しない(解雇)」というのが基本的な論理構成となる。

よって、試用期間や試用期間延長期間においては、「上司の指導や周りのサポート」を怠らず、かつそれを記録に残すようにすることが重要である。

 

大企業はどのように試用期間で解雇するのかご紹介

大企業では、人事部長名で「試用期間延長通知」のようなものを出すことが一般的である。

 

ここには、「当社社員に求められるレベルに満たないため、試用期間を延長すること」「延長する期間」そして最も重要な「延長する理由」を記載する。

そして、「延長期間の中で、課題(「延長する理由」の欄に書かれていること)が改善しなければ、本採用しない」と明記しておく。

 

大企業だと、等級(職能資格やグレード等)ごとにレベル感の定義があるかと思う。

「延長する理由」にはその定義を用い、入社時に設定された等級に求められる定義に照らして不足である、ということを示すのが一般的だろう。

 

例えば該当社員が「A等級」なのであれば、その等級定義及び本人の試用期間や試用期間延長期間での行動事実を照らし合わせ、「不足である」と論理的に導き出すよう記述するのである。

 

まとめ

試用期間で妥協し、ダメな30歳の正社員を雇ってしまった場合、「30年」「億単位」の莫大な負債を抱えることになる。

 

本記事では本採用しないことのリスクについて語ってきたが、「それでもやるべき」という判断も十分にあり得る。

この辺りの判断は難しく、上司や人事労務の技量が問われるところなので、判断に困る場合は是非ご相談いただきたい。

 

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