転職したばかりの者ですが、悩みがあります。
以前の会社よりレベルの低い会社に転職したはずなのですが、キャッチアップ(新しい環境での適応)が出来ず、すでに次の転職を考えています。
周りからは、「大手企業から来たのに仕事の出来ないヤツ」と思われていると思います。
転職難易度でいえば、業界最大手の元々の会社のほうが圧倒的に高く、実際に周りも優秀だったのに、なぜでしょう。
次の転職では同じことを繰り返さないために、なぜこういったことが起こるのか、プロのアドバイスをいただけますでしょうか。
今回は、「転職難易度および転職における壁」がテーマである。
このテーマに関しては、「転職難易度は志望企業で決まる」という考えを持っている方が多いので、今回は少し違う観点をご紹介する。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
本記事では、転職難易度の本当の決まり方について記載していく。
この記事を読めば「本当の転職難易度とは何か」が分かり、無謀な転職を避け、適切な難易度の転職ができるようになる。
結論
根拠や具体例は記事の中で述べてゆくが、まず結論を述べておこう。
多くの人は、「会社別の就職難易度」こそが転職難易度だと思っている。
しかしながら、「会社別の就職難易度」以上に転職難易度を決めるのは「環境変化への適応難易度」であり、これを筆者は「5つの壁」と呼んでいる。
- 会社の壁
- 業種および職種の壁
- 言語の壁
- 管理職の壁
- 社格の壁
転職の失敗理由は多岐に渡るが、一気に壁を超えすぎると誰もが失敗する。
上記の壁を一度でいくつ超えるのかを意識すると、転職の失敗は格段に少なくなる。
【トヨタ、グーグル、ソニーは難しいか?】転職難易度は志望企業だけでは決まらない
社会人が選ぶ転職ランキングがDodaより発表されている。(上記は少し古く、2021年版である)
このランキングに入っている、トヨタ、グーグル、ソニーに転職するのは難しいだろうか?
答えは、「人による」である。
一般的には難しいかもしれないが、バックグラウンド(今までの経験)によっては難しくない。
- ホンダや日産からトヨタに行く
- パナソニックやキヤノンからソニーに行く
- マイクロソフトやフェイスブックからグーグルに行く
のはイメージできるだろうし、極端な話でいえば、「人事」という職種の中で
- ソニー⇔トヨタ間の転職(トヨタ人事がソニー人事に転職、等)
- グーグル⇔トヨタ間の転職(グーグル人事がトヨタ人事に転職、等)
等もイメージが出来るだろう。(上記は双方、筆者自身が実例として見たことがある)
しかしながら、その一方で、
- ソニーの技術者(音響設計のプロ)がトヨタの人事に転職
- トヨタの技術者(メカ系のエンジニア)がグーグルの技術者(データサイエンティスト)に転職
これらはイメージできないのではないだろうか?
実際、絶対とは言わないが、おそらく実現しない転職である。
ここで何が言いたいかと言えば、転職難易度は志望先企業だけでは決まらず、元のバックグラウンドによる、という単純な事実である。
転職難易度は「今までの経験と、志望先ポジションで求められる経験のギャップ」で決まる
転職難易度は志望先企業だけでは決まらず、元のバックグラウンド(=今までの経験)による、と述べた。
それでは、今までの経験がどんなものであれば難易度が高く、逆に難易度が低い場合とはどういうものなのか?
結論を述べると、転職難易度というのは、今までの経験と志望先ポジションで求められる経験のギャップで決まる。
「会社別の就職難易度」(例:人気企業のトヨタは難しい)ももちろん影響するのだが、それはプラスアルファの要素に過ぎない。
基本的には「今までの経験と志望先ポジションで求められる経験のギャップ」で決まる。
「今までの経験と志望先ポジションで求められる経験のギャップ」とは、言い換えると「環境変化への適応難易度」のことである。
転職難易度を決める5つの壁
それでは、今までの経験と志望先ポジションで求められる経験のギャップ、つまり「環境変化への適応難易度」とは具体的には何なのだろうか?
筆者は、人事として数え切れないほどの転職に関わり、適応しきれずに3~4か月で辞めてしまう例も多数見てきた。
この中で学んだ結論なのだが、転職難易度(入社オファーをもらえるか、および、入社した後にキャッチアップできるか)に強く影響するのは、以下の5つの要素がいくつ変わったかである。
- 会社
- 業種および職種
- 言語
- 管理職
- 社格
筆者は、これを「5つの壁」と呼んでいる。
それぞれ簡単に解説しよう。
【1】会社の壁
「会社の壁」は、転職するとなれば誰もが超えなくてはならない壁である。
人間関係がリセットされるとともに、今までとは違う「常識」や「業務フロー」にぶち当たる。
最も一般的なハードルではあるが、軽視は出来ない。
この「会社の壁」ひとつ超えるだけでつぶれてしまう人も少なくない。
>>人事異動の決め方や選ばれる人の6つのタイプについて人事プロが解説
【2】業種および職種の壁
これは2つの壁ではなく、一つの壁である。
主に職種によって、適用される壁(業種の壁 or 職種の壁)が異なると考えてほしい。
筆者のようなコーポレートスタッフ、例えば人事や経理などでは業種が変わってもやることは大体同じである。
逆に、「職種」が変わればやることがまったく違ってくる。この場合、「職種の壁」を適用する。
逆に、エンジニアなどでは「業種の壁」となる。
職種である「エンジニア」が変わらないように見えても、業種が違えばやることがまったく異なる。
【3】言語の壁
言語の壁は、文字通り使う言語が変わる場合である。
転職ではないが、「辞令による海外赴任」がこの壁を乗り越えなければならない状態である。
外国語の使用頻度にもよるが、日系企業から外資系企業に転職する場合には、この壁を超えなければいけない場合がある。
【4】管理職の壁
後述するが、社格を下げる転職ではいきなり管理職、つまりマネージャーになれることも多い。
これは転職により「管理職の壁」を超えてしまった状態である。
元職場でもマネージャーだったのであればよいが、そうでなければ要注意である。
プレイヤー(インディビジュアル・コントリビューター)とマネージャーでは、求められる業務が全く違うからである。
そういう意味で、管理職の壁は「職種の壁のうちの一つ」と言えるかもしれません。
【5】社格の壁
社格の壁とは、一言で言うと「元の企業よりレベルの高い会社に入った」場合に感じるハードルである。
いわゆる「ステップアップ」「キャリアアップ」転職の際に生じる壁であり、典型例で言うと、以下である。
- そこそこ名の知れたIT企業のITエンジニアから、グーグルのITエンジニアへの転職
- 自動車業界でのTier1/Tier2から、トヨタ自動車(本体)への転職
- そこそこ名の知れた日系の電機企業(○○電機、的な会社)から、ソニーへの転職
- 大量採用の総合コンサルティングファームから、マッキンゼーやボストンコンサルティンググループへの転職
- 無名企業の人事職から、一流企業の人事職への転職
壁を超える目安について
ここまでで、以下の5つの壁があると書き、それぞれの壁について解説した。
- 会社の壁
- 業種および職種の壁
- 言語の壁
- 管理職の壁
- 社格の壁
ここまでだと単なる知識に過ぎないが、この項からは読者の転職に直接役立ちうる内容となっている。
結論から言おう。
これらの「5つの壁」を一気に2つ超えるのはかなり大変(可能ではあるが、苦労する)であり、3つ以上の壁を超えようとするのは無謀である、と覚えておいてほしい。
筆者は多数の短期離職(転職して3~4か月程度で辞めてしまうケース)を見てきたが、その全てが複数の壁を一気に超えた場合に起きていた。
- 転職で一度に超える壁が2つであれば、失敗の確率も高いものの、成功の確率の方がまだ高い。
- ただし、一度に3つの壁を超えた場合、うまくいかない確率の方が高くなる。
よって、転職で一気に超える壁は2つまでにしておくのが良い。
「会社」は絶対に変わるので、他の要素は変えないか、努力を前提にもう一つだけ変えるかにとどめることをお勧めする。
特に「社格を下げた転職」「外資系転職」で壁を超えすぎないように注意
ここまで読んで、「そもそも複数の『壁』を超えるような場合、採用されないのでは?」と思う人もいるかもしれない。
しかしながら、壁を超えすぎてしまいやすい(=3つ以上の壁を一気に超えやすい)典型的なケースが2つ存在するので、当てはまる場合には注意が必要だ。
それは以下の2つである。
- 社格を下げた転職
- 日系から外資系への転職
【1】社格を下げた転職
社格を下げた転職では、管理職未経験から管理職になりがちだ。
同時に、未経験職種でもやらせてもらえることも多い。
つまり、以下の3つの壁を一気に超えがちなので、注意してほしい。
- 会社の壁
- 業種および職種の壁
- 管理職の壁
具体例で言えば、経営企画に憧れていた一流大手企業の経理スタッフが、ベンチャーに転職して経営企画マネージャーになるような場合である。
未経験職種でのマネージャーはかなりきついし、企業規模も違うので業務の進め方が全く異なる。ありがち、かつ危険な例と言える。
「経営企画に憧れていた一流大手企業の経理スタッフが、ベンチャーに転職して経営企画マネージャーになるような場合」は、成功の確率がまだ高めな方です。
なお、ベンチャーへの転職に興味がある方は「ベンチャー企業への転職の教科書|気を付けるべき点と成功のポイント」を、中小企業への転職に興味がある方は「大企業から中小企業・ベンチャー企業への転職で戸惑いがちなことと成功のポイント」を参考にしてほしい。
【2】日系から外資系への転職
外資系への転職でも、一気に複数の壁を超えがちである。
まず、日系企業よりも「職種や実績にのみ基づいて判断する傾向が強い」ので、社格が上がりがちである。
これはキャリアアップ転職しやすいというメリットでもあります。
次に、日系とは異なり、「いきなり管理職」で採用することに抵抗がない場合が多い。
さらに、面接の評価やポジションの空き具合によっては、管理職未経験でも管理職で採用する場合がある。
最後に、外資系なので当然ではあるが、「言語の壁」を超えることもある。
(ただし、実際には英語をあまり使わない外資系も多い)
つまり、以下の4つの壁のうち、2~3つを一気に超えがちなので、注意してほしい。
- 会社の壁
- 言語の壁
- 管理職の壁
- 社格の壁
なお、外資系転職に興味がある方は「外資転職の教科書」を参考にしてほしい。
まとめ
転職難易度といえば「会社別の就職難易度」を考える人が多いが、実際の転職難易度を決めるのは「環境変化への適応難易度」である。
そして、環境変化への適応難易度は以下の「5つの壁」をいくつ超えようとするかで決まる。
- 会社の壁
- 業種および職種の壁
- 言語の壁
- 管理職の壁
- 社格の壁
人事として見てきた数多の失敗例から考えると、転職で一気に超える壁は2つまでにしておくのが良い。
特に、「社格を下げた転職」「外資系への転職」では壁を超えすぎてしまいがちなので注意しよう。