現在、うつ病で休職中です。本来であれば「ならし出社(試し出勤、リハビリ出勤)」後に復職すべきだと思います。
しかし、元々職場の人間関係が上手くいかず鬱になった面もあり、戻った時の「腫れ物扱い」を考えると、転職したいと考えています。
ただ、休職中に転職活動をするとなると悩みも多いです。
例えば、「そもそもアリか」「転職先には伝えるべきか」「伝えなかった場合、バレるか」「バレない方法はあるか」「もしバレたらどう対処するか」などです。
ネットで検索してみても単なる知識ばかりで、「それでは実際、どうすればいいのか?」に役立つ実務的な情報は見つかりません。
休職中の転職活動について、人事労務のプロとしてのご意見をうかがいたく、よろしくお願いします。
今回のテーマは「休職中の転職」である。
まず最初に、安心していただきたい。この記事では、相談者におっしゃっていただいた悩みについて全て回答している。
いつも通りではあるが、本記事は、転職情報サイトのライターでも、(事業会社の実態への理解が薄い)社労士でもなく、国内有数の人事労務のプロフェッショナルが実務経験から書いている。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
「源泉徴収票から休職がバレることがあります」のような知識も当然記載しているが、それで終わりではなく、「それでは、一体どうしたらいいのか?」という対処法についても正面から答えている。
この記事を読むことで、「そもそもアリか」「転職先には伝えるべきか」「伝えなかった場合、バレるか」「バレない方法はあるか」「もしバレたらどう対処するか」などの全ての答えが分かることを約束する。
日本に存在する「休職中の転職活動について」の記事の中で、最も実用的かつ網羅的な内容になっていると思います。
参考にしていただければ幸いです。
【前提】5つの「休職」
まず、「休職」とひとまとめに言っても様々な種類があるので、前提として「休職に関する共通理解」を持っておきたく、ほんの少しだけお付き合い頂きたい。
休職には、大きく分けて以下の5つの分類がある。
- 傷病休職・メンタル(こころの病気、人事は「メンタル」と呼ぶことが多い)
- 傷病休職・フィジカル(こころの病気を除く病気や怪我、人事は「フィジカル」と呼ぶことが多い)
- 育児休職
- 介護休職
- その他休職(ボランティア・留学等)
本記事の内容は、これらすべての「休職」に対応している。
ただし、様々な面で①番目の「傷病休職・メンタル」が最も転職の難易度が高いので、この場合をやや念頭におきながら記述していく。
【結論】休職中の転職活動はアリかナシか?
結論から言えば、休職中の転職活動はアリである。その理由は以下の3つだ。
- 法的には全く問題ない
- 評論家的な回答は「モラル的にはよくない」。ただし実態は異なる
- キャリア的には転職すべき場合も多い
それぞれ簡単に解説しよう。
法的には全く問題ない。ただし
まず、休職中の転職活動は法的には全く問題ない。
違法性はゼロである。まずここを明確にしておきたい。
とはいえ「転職先で満足に働けない体調なのに隠していた」までいくと「隠していた」という理由ではなく、「労務提供が出来ない」という理由で転職先の就業規則に基づいた解雇の可能性はある。
しかし、そうならない見込みで転職活動を行うのであれば問題ない。
ただし、ここでひとつ重要なことがある。
それは、「重要な経歴」の詐称を避ける、ということである。
具体的には、面接で「体調はどうか」と聞かれた場合、嘘を答えると経歴詐称になってしまうということだ。
ここでは「一時期体調を崩していたが、現在は回復してきている」などの嘘ではない絶妙な回答をする必要がある。
よって、実務的にはあまり気にしなくて良いポイントだと思います。
評論家的な回答は「モラル的にはよくない」。ただし実態は異なる
「休職は復職することを前提に行うもの。会社に対するモラル的にはどうなのか」ということを言う人がいる。
確かに、制度からして休職は復職することを前提に行うものだ。
それは間違いない。なので、「モラル的には良くはない」が表面的な答えかもしれない。
ただし、筆者が思うに、それはあまりにも実態を知らない評論家的な意見である。
すごく辛辣な、会社側の人間としての冷たい本音を言う。
多くの場合、会社は休職者に対して「絶対に戻ってきてほしい」とは思っていない。
エース級の人間であればさすがに別である。
しかし多くの場合、経験者採用も盛んな現在に「調子を落とした人間/ブランクをあけた人間」を「転職したらモラル違反だと思うほど」心待ちにしているなどということはほぼない。
仲のいい上司や同僚が「個人として」心待ちにしている可能性については全く否定しません。
実際には「モラル違反だ!」ではなく「ああ、戻りづらかったんだろうな」と周囲に思われて終わり、というのが実態である。
キャリア的には転職すべき場合も多い
ここまで法とモラルの話をしてきたが、もう一つ重要な点がある。
それは、あなた自身のキャリアである。
休職後は、どうしても周囲からの扱いが変わってしまう。休職事由によっては腫れ物扱いの場合もあるだろう。
そもそも、休職の原因(の一つ)が職場環境やそこでの人間関係、という方もいるかもしれない。
そういった場合であれば、ここでキャリアをリセットし、しがらみのない環境でスタートする、というのは非常に良い選択肢である。
筆者としては、キャリアのために転職すべき場合も多いと思っている。
【究極の2択】転職先に休職中であることを伝えるべき場合、伝えるべきでない場合
さて、ここがあなたを最も悩ませているポイントではないだろうか。
転職先に休職中であることを伝えるべきか否か、である。
実は、これは単純に「いかなる場合もこちらにすべき」と言える問題ではない。
転職先に休職中であることを伝えるべき場合、伝えるべきでない場合、その両方が存在する。
それぞれ解説していく。
転職先に休職中であることを伝えるべき場合
先に「伝えるべき場合」からいこう。
正直に伝えるべきだと思われるのは、以下の場合である。
- 育児休職であり、かつ「なぜ復職ではダメなのか」を説明できる場合
- ボランティア・留学等の休職であり、かつ「なぜ復職ではダメなのか」を説明できる場合
- 介護休職であり、かつ「これ以上この状況が続かないこと」を説明できる場合
- 傷病休職・フィジカルであり、かつ「転職先に入社する頃には治っていること」を伝えられる場合
一言で言えば「休職事由が再発しなさそうなものであり、なおかつ人事面接官におおむね理解されそうな場合」である。
もう少し具体的な例に落とし込むと、以下のような場合だ。
- 現在育児休職中だが、育児休職をするとその後は出世の見込みがなくなる(ママとしてのキャリアになってしまう)会社のため、女性差別がない会社でバリバリ働きたくて転職する場合
- 現在ボランティア休職中だが、その中で価値観が変わり、NPOに転職したくなった場合
- 現在介護休職中だが、介護のプロでない自分では手に負えない状況となり、施設に預けて自分が働くことにした場合(転職の理由は通常通り別途用意する必要あり)
- 現在手術のためフィジカル休職で入院していたが、治る見込みがたった場合(転職の理由は通常通り別途用意する必要あり)
こういった場合であれば、嘘をつくメリットよりも、嘘をついたことで後々不利な状況になるデメリットの方が大きいので、正直に話すことをお勧めする。
極度に嘘が下手な方や、罪悪感を感じやすい方には「正直に伝える」選択肢しかないのかもしれない。
ただし、「休職中のステータスである」と正直に伝えて転職する場合は書類・面接の両面において極端に不利になり、今の企業より大きくレベルを下げる必要があることは覚悟してほしい。
運が悪いと、「誰でもいいから採用」というブラック企業に入ってしまう可能性もある。
後述するが、転職希望者がある程度以上いるような企業は、休職中の方を採用したりはしないのが現実である。
転職先に休職中であることを伝えるべきでない場合(隠すべき場合)
「伝えるべきでない場合(隠すべき場合)」は、伝えるべき場合以外の全てのケースである。
つまり、基本的には、転職するのであれば休職中であることを言うべきではないということである。
この問題について理解するための、面白い例があったので紹介したい。
経験のないキャリアコンサルタントが「早い段階で伝えるべき。隠すことにメリットはない」という浮世離れした回答をしていた例である。
Q. 休職をしていたことは自分から伝えるべきでしょうか?
A. 早い段階で伝えておくのがベター。隠してもメリットはありません。
必ずしも職務経歴書に記載しなければならない、面接で伝えなければならないというものではありませんが、休職した事実があるのであれば、職務経歴書には記載しておいたほうがいいでしょう。
面接でもできるだけ早い段階で伝えておくことをおすすめします。休職期間の有無を明らかにしないことによって、採用担当者が、求めている経験の深さを測りきれず、合否判定を正確に行えなくなるリスクがあるからです。
といっても休職事実の有無そのものが合否判定に大きな影響を与えるという意味ではありません。(以下略)転職サイト doda(デューダ)内 「完全ガイド転職Q&A」より
まず、「隠してもメリットはない」が完全に嘘である。
「転職のスタートラインに立てる」という最大のメリットがある。
面接官として、そして人事のプロとして断言するが、転職希望者がある程度以上いるような企業であれば、「現在、休職中です」などという人材を採用することはまずない。
よって、「休職事実の有無そのものが合否判定に大きな影響を与えるという意味ではありません」も完全に嘘である。
このQ&Aがいかに「転職者に寄り添わずに」「企業側目線のみで」書かれたものであるかがうかがえます。
再度、結論を言う。
基本的には、休職中の転職においては休職の事実は伝えるべきでない。
理由は単純で、極端に不利(書類・面接ともにほぼ通過しない)になってしまうからだ。
もちろん、転職先のレベルを今の会社より圧倒的に下げれば「休職中ではあるが、わが社に来て欲しい人材」と判断される可能性はある。
あるのだが、それはあなたのキャリアにとって良い選択肢ではないだろう。
今と同等以上の転職先を目指すのであれば、「転職先に休職中であることを伝えるべき場合」以外は伝えないのが正解である。
【原因】転職先に休職がバレる3つのルート(源泉徴収票、住民税、傷病手当金)
正直に話した場合には、次の次の項である「【これで盤石】休職中の方のための転職活動方法」まで進んでいただけますと幸いです。
仮に、休職を隠して無事に転職できたとしよう。
そうだとしても、転職先に休職歴がバレるかどうか戦々恐々として過ごすのは嫌だろう。
休職歴が転職先にバレる可能性としては、以下の3つがある。
- 源泉徴収票
- 住民税
- 傷病手当金
対策については次の項で扱うので、ここでは「なぜそこからバレるのか」を簡潔に説明しよう。
【1】源泉徴収票
転職先の企業があなたの年末調整を行うために、あなたは転職先に対し「源泉徴収票」を提出する必要がある。
これには年収が載っているため、少なすぎると「前職での給与は?もしかして休職していたのか?」と気づかれる可能性がある。
【2】住民税
住民税は基本的には会社が徴収する。
よって、これが少ないと「(住民税の算定根拠である)前職の給与は?もしかして休職していたのか?」と気づかれる可能性がある。
【3】傷病手当金
この項目については、ある程度レアケース(特に、今後はバリバリ働けるという場合であれば関係ない)だと思う。
傷病手当金とは、傷病で働けなくなった時、健康保険から支給される手当のことである。
これを前職で受け取っており、かつ転職先でもまた傷病になって受け取ろうとした場合、「支給期間が1年6ヶ月まで」という制約から(受給歴の照会により)バレる場合がある。
【対策】転職先で休職がバレない方法と、バレた際の対処法
正直に話した場合には、次の項にお進みください。
転職先で休職がバレない方法
転職先で休職がをバレないようにするためにはどうしたらよいのだろうか。
傷病手当金はともかく、源泉徴収票と住民税についてはいくつか方法があるのでご紹介しよう。
- 【源泉徴収票】源泉徴収票を提出せず、自分で確定申告をする
- 【源泉徴収票】1月に転職する
- 【源泉徴収票/住民税】年収を小さく言っておく
【1】【源泉徴収票】源泉徴収票を提出せず、自分で確定申告をする
まず、源泉徴収票は本来、前職からもらって転職先に提出しなければならない。
それによって、転職先はあなたの年末調整を行うことが出来る。(これは本来は「義務」である)
ただし、転職先によっては「源泉徴収票を提出せず、自分で確定申告をする」という(正しくない)やり方を認めてくれる可能性がある。
これが認められた場合、源泉徴収票から休職歴がバレる心配はなくなる。
【2】【源泉徴収票】1月に転職する
源泉徴収票は、1月~12月のサイクルで作成される。
つまり、1月に転職先へ入社した場合には(新年の源泉徴収票に切り替わるため)前年の源泉徴収票(=年収)が知られなくなる。
また、1月に前職において復職し、その後に転職先に入社することで、「その年の源泉徴収票を見ると普通に給与が支払われている状態(※1月からは働いているため)」にするというテクニックもある。
【3】【源泉徴収票/住民税】年収を小さく言っておく
書類上、また面接の際に、年収を小さく申告しておくという手もある。
ただし、最低賃金の兼ね合いもある(=小さく言うにも限界がある)し、おそらく3~4か月以上の休職期間があると、やはり違和感が出てくるだろう。
転職先での年収水準も低く見積もられてしまうかもしれない。
逆に、1~2か月の休職なのであれば、ある程度有効な手になり得るだろう。
【源泉徴収票/住民税】実はそもそもバレにくい
さて、ここまで「バレないための方法」を説明してきた。
ただし、源泉徴収票はともかく住民税を完全にごまかす方法はなく、失望している方もいるかもしれない。
しかしながら、実はそもそも源泉徴収票や住民税によって休職がバレることは、一定以上の規模の会社では起こりにくいことなのである。
その理由は以下である。
- 源泉徴収票や住民税を「社労士」「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)」に外注している場合、人事に伝わる可能性は高くない
- 源泉徴収票や住民税を「経理」で処理している場合、人事に伝わる可能性は高くない
- 住民税には「所得控除による各人別の差異」が出て来るため、ある程度の年収しか予測できない
①および②を一言で言えば、大抵の場合「休職を知った場合に対処する組織(=人事)」と、「源泉徴収票や住民税を処理する組織(=経理や外注)」は相当違う部署だということだ。
よって、それらの部署が連携して「お前、本当は休職してただろ」とバレる可能性はそもそも低いということである。
社労士に外注している場合も多いですが、人事労務が少人数で一手に引き受けている場合もあります。この場合にはバレる可能性があるでしょう。
転職先で休職がバレた時の対処法
様々な対策を施しても、休職していた過去がバレた時にはどうするか。
これは率直に申し上げて「言葉でどうにかする」しかない。
まず前提として、隠していたことは事実なので、謝ろう。その上で、場合に応じて以下のように伝えよう。
- 申し訳ございません。休職期間が短く、かつ今後の業務には問題がないと思っていたため、お伝えしておりませんでした。
- 申し訳ございません。休職はしていたものの、現在は全く問題ない(業務とは関係がない)ため、お伝えしておりませんでした。
嘘がバレてクビにされることはあるのか?隠していた場合は?
最後に、バレた場合の「最悪のケース」についても書いておこう。
前にも記載したが、休職を隠すどころか「健康です」と嘘を述べており、かつそれがバレた場合には、「重要な経歴」の詐称を行ったとして解雇や内定取り消しがあり得る。
ただし、「休職を隠していたがバレた」という場合は話が別である。
転職後の会社で問題なく働けていれば、そもそも休職が「重要な経歴」ではなかったと考えられ、解雇されることはまずない。
非常に低い確率であるが、万が一上司や人事が解雇をちらつかせてきたり、そこまでいかずとも嫌がらせをしてきたりした場合には、別の有効な対処法がある。
(あれば)企業内労働組合、(なければ)外部労働組合(ユニオン)の力を借りるというものである。
これを利用するような事態になることはまずないと思うが、覚えておくと良いだろう。
【これで盤石】休職中の方のための転職活動方法
最後に、休職中で「(傷病、育児、介護等で)そこまでアクティブには転職活動できない…」という方におすすめの転職活動方法をご紹介しておこう。
それは、ゆるゆる転職である。
ゆるゆる転職とは、一言で言えば以下のようなプロセスである。
- 転職サイトや転職SNS(Linkedin)に登録だけして放置する
- 放置している間に良い求人や良いエージェントがたまる
- 良い求人や良いエージェントがたまった時点で、自分のタイミングで動き出す
転職活動というのは、始めてすぐに成果が出る(転職が決まる)ものではない。
その大きな要因となっているのが、「良い求人を探す」「良い転職エージェントに出会う」までのリードタイムである。
「どこでもいいから転職する」「どんな求人を持ってくるエージェントでもいいから付き合う」ので良ければ、すぐに出来る。
しかし、転職は人生の一大事なので、その方針は全くおすすめしない。
そこで役に立つのが「とりあえず登録して職務経歴だけ書いて放置」するゆるゆる転職である。
もしあなたが休職中であり、かつ転職を検討中なら、今すぐに登録だけはしておこう。それが将来の自分を救う。
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まとめ
あなたの人生は、あなたのものだ。
「モラルが~」「バレたら~」「周囲の目が~」などと気にしすぎるのではなく、あなたのキャリア人生を幸せな方向に進められる、と感じた方向に歩き出そう。