業務が細分化・手順化されていて自分自身が成長している気がせず、「こうなりたい」というロールモデルがいません。
とはいえ、「自分は実は恵まれていて、とんでもないものを手放してしまうのではないか」という不安もあります。
大企業を辞めることに関し、人事のプロとしてはどう考えるのか、どんなときなら辞めても良いのか等、教えて頂けますでしょうか?
今回は「大企業を辞めたい」がテーマである。
本記事では「大企業を辞めたい方の教科書」と題し、原因やメリット・デメリット、起こり得る後悔、対処法まで、「大企業を辞めることに関する全て」を記載している。
初めて訪れた方のためにお伝えしておくと、当サイト「人事参謀」は以下の経験を持つ人事・転職のプロフェッショナルが執筆している。
筆者の専門性や実務経験に基づき、机上の空論を一切除いて本音で執筆しているので、安心してお読みいただきたい。
- 4回の転職を経て、30代前半で東証一部上場企業(現・東証プライム上場企業)の人事執行役員/年収1,800万に至った経験
- 難関企業における勤務経験(外資/日系、大企業/ベンチャー、戦略コンサル)
- 人事面接官として多数の候補者の面接を行った経験
- 人事マネージャーとして転職エージェントや転職サイトを活用し、採用を実施した経験
この記事を読むことで、大企業を辞めるにあたって考えるべきポイントが網羅的に分かり、大企業を辞めるべきかどうかを決断することが出来るようになるだろう。
【結論】原因分析と今後のキャリア戦略立案が出来ればまったく問題ない
「大企業を辞めて大丈夫か」という質問に対し、最も誠実に答えるとすれば「人による(あなた次第)」になるだろう。
しかしながら、その回答はあまりにも不親切すぎる。
よって、本記事では「何があれば大丈夫なのか」、逆に言うと「何がないと大丈夫ではないのか」を最初に結論として示しておきたい。
必要なのは、大企業を辞めたくなった原因の分析と、それを踏まえた今後のキャリア戦略である。
これらの必要性や方法については、本記事全体を通して解説する。
【原因】大企業を辞めたくなる10の理由
大企業を辞める際には、大企業を辞めたくなった原因の分析と、それを踏まえた今後のキャリア戦略が必要であると述べた。
大企業を辞めたくなった原因の分析にも有用であることから、まずは一般的に多い「大企業を辞めたくなる理由」を挙げておく。
- 人間関係が悪い(特に上司との人間関係。いわゆる「上司ガチャ」のハズレ)
- 自身が望んだ業務ではない(いわゆる「配属ガチャ」のハズレ)
- 業務が細分化され過ぎており、スキルが身に付かない
- ローテーションにより専門性が身に付かない(3年ずつで職種をまたぐ異動が起こる、等)
- 単純作業やムダな業務(いわゆる「Bullshit Jobs」)が多く、つまらない
- ヒエラルキーがあり、若手である自分の意見が受け入れられない
- 働かない中高年がおり、腹立たしい
- 飲み会やイベントがくだらない
- 年功序列要素があり、出世に時間がかかる
- 著しくヒマである。または、著しく忙しい
大企業に限るものも、限らないものもあるし、やや重複する項目もある。複数の理由が当てはまるという方も多いだろう。
しかしながら、人事として退職者インタビュー等をしていると、概ね上記のような理由で辞めたくなる人間が多いと感じている。
繰り返しになるが、大企業を辞めたいのであれば「大企業を辞めたくなった原因の分析」が重要である。
上記のどれに自分が当てはまるのか、もしくはそれ以外の理由があるのか、振り返っておくことはその原因分析に役立つ。
【メリット・デメリット】大企業を辞めるべきか?
大企業を辞めるべきか、辞めるべきでないのか、迷っている方は多いだろう。
大企業勤務にはメリットも多いので、通常は迷うものである。
お分かりかと思うが、大企業を辞めるべきかどうかについても「人による(あなた次第)」が正確な答えになる。
個々人にとってのメリットとデメリットを勘案して決めることになるが、本項ではその参考としてメリットとデメリットを示しておく。
大企業を辞めるメリット
大企業を辞めるメリットは、この記事で既に述べた「大企業を辞めたくなる理由」が解消される可能性があることである。
既に述べているので、ここで繰り返すことはしない。
さらに言えば、あくまで解消される「可能性がある」だけであり、きちんと分析・戦略立案をして、同じ轍を踏まないようにする必要がある。
逆に、きちんと原因を分析し、キャリア戦略を立て、その上で適切な打ち手(転職や起業)を見つけられるのであれば、人生の満足度が劇的に改善される可能性もあるのである。
大企業を辞めるデメリット
本項では、大企業を辞めるデメリットにフォーカスして紹介していきたい。
以下が大企業を辞める際の一般的なデメリットである。
これらが失われることを踏まえてもメリットの方が大きいと考えるのであれば、大企業を辞めるべきだろう。
- 年収や福利厚生といった待遇面が悪化する
- ネームバリューが失われ、世間体が悪くなる
- 社会的信用が減り、ローン審査等で金銭面の損失を受ける
- 安定したキャリアが用意されなくなる
- 専門性を磨くのが難しくなる
- 一定以上のレベルの社員に囲まれる環境が失われる
それぞれ若干の解説を加えていく。
年収や福利厚生といった待遇面が悪化する
大企業では、年収や福利厚生に関する労働条件が良いことが多い。
年功要素があったり、成果による差がつかなかったりと若手から不満は出やすいものの、平均値が高いこともまた事実なのだ。
大企業を離れると、少なくとも一時的に年収や福利厚生が悪化することは多い。
ネームバリューが失われ、世間体が悪くなる
当然ながら、大企業勤務というネームバリューは大企業でのみ得られる。
「三菱商事勤務」「ソニー勤務」のようなものをステータスだと思う方からすれば、大きなデメリットだろう。
社会的信用が減り、ローン審査等で金銭面の損失を受ける
ネームバリューの話に近いが、もう少し具体的な社会的信用においても損失があり得る。
その代表例が金銭面、例えばローンにおける審査の通りやすさ、借りられる金額等である。
安定したキャリアが用意されなくなる
大企業では、「社員は辞めずに勤務し続けるもの」ということを前提に人事が行われる。
上司や人事部がキャリアについて考え、イマイチな人材でもどうにかして活用しようという努力が行われる。
大企業からベンチャーや外資系に行った場合、または起業した場合、基本的に「自分の力でどうにかする」しかない。
起業の場合は言わずもがなである。
専門性を磨くのが難しくなる
大企業を離れる方の多くは、ベンチャーや中小企業への転職や起業を考えているものと思う。
そういった場所では、職種を横断して、または雑務も含めて「何でも自分でやる」ことが求められる。
執行役員に至るまでスケジュール調整や経費精算、職種横断での業務等を行う必要があり、大企業のように集中して専門性を磨くことは困難である。
さらに、IRの専門家、内部監査の専門家など、ほぼ大企業にしか存在しない専門性もあります。
大企業では、いわゆる総合職の専門家が雑務をやらなくていいように「秘書」「庶務」の方々がサポートしてくれることもあり、これも見逃せないメリットである。
特定の職種において専門性を極めたいのであれば、大企業の方が向いているだろう。
一定以上のレベルの社員に囲まれる環境が失われる
大企業では、ある程度の一般常識や学歴を前提とした採用が行われていることが多く、「一定以上の社員レベル」が担保されていることが多い。
あなたは現在、大企業において「使えない上司・同僚」等により悩まされているかもしれない。
しかし、大企業にいるうちは自覚できないかもしれないが、大企業の社員レベルは平均値としては高いのだ。
大企業を辞めた後、さらに驚くべき無能さの社員と出会う機会があるかもしれない。
【後悔】大企業を辞めたら実際どうなる?後悔するのか?
大企業を辞めたら後悔するのかどうか。ここが気になる方は多いだろう。
結論から申し上げると、(そろそろ申し訳なくなってきたのだが)大企業を辞めて後悔するかどうかも結局は「人による」。
個人のキャリアや仕事における好き嫌いや得意不得意が異なる以上、最終的には、ここまで述べてきたメリットとデメリットを天秤にかけて自分で決めるしかないのである。
ただし、例によってこれだけではあまりに不親切なので、2つほど追加で情報を提供しよう。
一つは、「大企業を辞めた」後に後悔しても取り返しがつくということだ。
もちろん大企業を辞めて後悔する可能性自体はあるのだが、転職にはいわゆる「短期離職カード」という考え方がある。
大企業にいた人間はこのカードをキャリア全体を通して数枚程度保持しており、何回かは別の大企業(同じ企業への出戻りも含む)に再度転職することが出来る。
もう一つは、筆者が人事をしている中で、大企業を辞めたことで真剣に後悔している人にはあまり会ったことがないという事実である。
ここで誤解のないように言っておくが、実際には大企業が向いていた人が「俺は大企業には合わない」と思い込み、ベンチャーに行って後悔している例は、山のようにある。
しかしながら、既に述べた通り、大企業出身者は転職で大企業に戻ることが可能なのだ。
やり直しが出来ることから、「人生を棒に振った」レベルで真剣に後悔している人には人事として出会ったことがない、ということである。
大企業が合わなかったが、例えばベンチャーはさらに合わなかった場合、その2社での反省を生かして自己分析し、「自分でもやっていけそうな組織風土の大企業」にまた入り直せばよい。
この場合、大企業にプラスしてベンチャー(もしくは中小企業、起業等)の経験もあり、自分の向き不向きが良く分かっている状態になっている。
新卒からずっと同じ大企業にいる人に比べて、良いキャリアを歩める可能性が高いだろう。
【対処法】大企業を辞めたい場合の対処法【3ステップ】
最後に、大企業を辞めたい場合の対処法を述べる。
- 大企業を辞めたくなった原因を分析する
- 今後のキャリア戦略を立てる
- 打ち手を検討し、実行する
上記の3ステップである。それぞれ解説していく。
【1】大企業を辞めたくなった原因を分析する
あなたは、仕事における自身の好き嫌いや得意不得意が100%分かっているだろうか?
筆者の経験によると、仕事における好き嫌いや得意不得意というものは、長く仕事をしないと自分自身でもはっきりとは見えてこない。
何があなたに「大企業を辞めたい」と思わせているかを分析することで、あなたの仕事上の好き嫌い、得意不得意が分かってくる。
それをまずは分析してみることが肝要だ。必要に応じて、本記事の「大企業を辞めたくなる理由」も参考にしてしっかりと考えてほしい。
具体的には、辞めるきっかけになった事象(嫌だったこと)があれば、その事象のどの点が嫌だったのか、自分の気質として何が耐えられなかったのかを考えてみる。
さらに、「何があれば辞めなかったと思うか」を考えてみることも役に立つ。
これは新卒採用において学生が行う「自己分析」とは違い、リアルな仕事の場で得た情報をもとにした精度の高い分析である。
よって、あなたが次に何をするかを決めるのに著しく有用である。必ず行うようにしよう。
【2】今後のキャリア戦略を立てる
キャリア戦略を立てる際、年収での目標を立てたり、キャリアの最終ゴール(例えば、東証一部上場企業の人事取締役等)を設定したりして、そこから逆算して考える人が多い。
その戦略の立て方は間違いではないのだが、あなたのキャリアは想像以上に長いという事実が計算に入っていない場合がよくある。
日本において定年が延長されていく流れが見えている中、あなたのキャリアはあなたの健康寿命とほぼ同じになるかもしれない。
つまり、人生そのものに近い長さを持つ、圧倒的な長期戦なのだ。
短期であれば、年収目標やキャリアゴールを目指して「辛くても頑張る」のも良いだろう。将来のために、一時的に頑張るのは良いことかもしれない。
しかしながら、人生全体という長さを「辛くても頑張る」で乗り切ろうとすると、文字通り「辛いだけの人生」になってしまう。
これを避けるために、あなたの気質、好き嫌い、得意不得意に合った仕事を選ぶという視点を強く持っていたい。
ここで、先ほど行った「大企業を辞めたくなった原因の分析」が役に立つ。
あなたが辞めたくなった理由を再発させないためには何が必要か、これを考えることは「あなたがイキイキと働くには何が必要か」を考えることでもあるからだ。
「あなたがイキイキと働くことのできる、気質に合った仕事」という前提の中で、目標やゴールを持つようにするのがキャリア戦略として最も賢いかと思う。
自分には何が合っているのか、何を目指して働くのか、そのために次に何をやるのか、よく考えよう。
【3】打ち手を検討し、実行する
キャリア戦略を立案したら、あとは打ち手の検討と実行のみである。
キャリア戦略の実現(大企業を辞めてイキイキと生きていくこと、と読み替えていただいても良い)のためには、主に以下の打ち手を実行することになるだろう。
- 転職以外の選択肢(異動等)
- 転職
- 起業
転職以外の選択肢(異動等)
大企業を辞めたい、と思ってすぐに転職するのはおすすめしない。
大企業を辞めたい理由を分析する中で、必ずしも「大企業であること」自体が辞めたい原因ではないことに気づく人も多いからだ。
例えば、大企業であることそのものではなく、あなたの上司や部署が問題なのであれば、転職ではなく「異動」でも解決できるし、異動は転職よりもリスクが低い。
今の仕事が嫌になった場合、試してみるべき行動(リスクが低い順)は、以下である。
- 改善する
- 我慢する
- 異動する
- 転職する
異動以外にも、転職に至るまでに出来る行動はある。
自分自身で改善できることはないのか、少し我慢していたら辞めたい原因がなくなることはないのか、考えてみよう。
こういった場合に、上司がそろそろ部署異動の時期だとわかっているのであれば、「我慢」も一つの打ち手になってきます。
転職以外の選択肢について詳しくは、「【転職はハイリスク】人事プロが教える、転職より前に検討すべき3つの選択肢」をお読みいただければ幸いだ。
転職
改善、我慢、異動、これらが全て難しければ、多くの人にとって転職が第一選択肢となってくるだろう。
転職については、筆者の専門領域であり、当サイトのメインコンテンツの一つでもあるので、ぜひ熟読して成功させてほしい。
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起業
大企業云々ではなく、サラリーマン自体が向いていないと言う結論に至った場合、起業という選択肢もある。
ここで一つ重要なことを述べておく。
実は、「サラリーマン自体が向いていないと言う結論」に至る方は多い。この結論を踏まえ、起業したいと思う方も多い。
ただし、起業は(ここまで紹介してきた)転職等とは異なり、リスクが高い上に、並大抵の努力では継続して稼ぎ続けられない。
「サラリーマン時代は良かった」と言っている零細企業の経営者は多く見てきたし、「ベンチャーへの転職」に比べて大企業に戻るハードルも高い。
年収1億以上になる必要があるのであれば起業以外の選択肢はほぼないが、「30代で年収2,000~3,000万欲しい」程度であればサラリーマンで充分であり、起業のリスクを冒す必要はない。
止めることはしないが、起業という選択肢は想像以上にハードであることは肝に銘じておこう。
しかしながら、起業とどちらが大変か分からないくらい大変です。筆者は間近で働いていたことがありますが、羨ましいとは全く思えませんでした。
まとめ
本記事を参考にして以下のステップを踏んでいただければ、大企業を辞めることに全く問題はない。
- 大企業を辞めたくなった原因を分析する
- 今後のキャリア戦略を立てる
- 打ち手を検討し、実行する
仮に後悔する状況になっても、大企業に戻ることは出来る。一度しかない人生、その中でもかなりの割合を占める「仕事」について、妥協しないで欲しい。